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相変わらず手の震えが止まらない。先ほどの芹沢の言葉を忘れるかのように、凪は必死に洗濯物を洗う手を動かしていた。桶の水が飛び跳ね、彼女の顔に水滴がつく。
「濡れていますよ。」
突然、顔の前に差し出された真っ白な手拭いに、凪は驚いて顔を上げる。
「沖田さん…」
「どうかされましたか?暗い顔をしているように見えますけど。」
「そんなことは…」
「それなら別に良いんです。」
凪に興味がなくなったのか、沖田は庭の奥へと歩いて行き、大きく伸びをする。その姿に、「猫のような人だな」凪はふとそんなことを考えながら、彼に手渡された手拭いで濡れた顔を拭う。
「沖田さん、この手拭い、洗ってお返ししますね。」
凪が後ろから声をかけると、沖田はゆっくりと振り返る。
「それは凪さんが使ってください。新品ですから。」
「でも、悪いです。新品なんて…」
「初めてですね。」
「…え?」
凪が首を傾げると、沖田は嬉しそうに微笑んでいる。
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