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大学、短大、専門学校のパンフレットを机に広げると、凪は項垂れた。
「めんど…」
ここが人生の分岐点のひとつであるということは、彼女自身よく分かっていた。無意識に窓を開ける。強く開けたせいか、ガチャンと大きな音が辺りに響いた。冷房で冷えた空気が、途端に蒸し暑いものに変わる。時計を見ると十九時を過ぎているというのに、暑さは昼間と全然変わらない。むしろ、蒸し暑さが増したようだ。
「ちょっと出るかな。あ、でも、頭冷やすどころか逆に熱くなっちゃいそう。」
独り言を呟きながら、部屋着からワンピースへと着替えると、凪は階段を下りていった。
「お母さん、コンビニ行ってくる。」
ソファで本を読んでいた母親が、眼鏡をはずして振り返る。
「こんな時間に?危ないわよ。」
「子供扱いしないでよ。すぐそこだし。」
「…気を付けるのよ。」
凪と入れ替わりに父親がリビングに入って来て、玄関の扉が閉まったことを確認するとすぐさま口を開く。
「どうしたもんかな。」
「あの子には合わなかったのね、進学校というものが。成績が良かったから何も考えずにあの高校を選んだけど。他の子は皆目標に向かって頑張ってる。ひとり取り残されてる気がしてるのよ、きっと。」
「受験に加え難しい年頃だ。だが、大丈夫か?」
「分からない。でも、きっと大丈夫よ、凪は。」
「そうか…」
それ以降二人の会話は途切れた。
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