鴨川

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怖くなった凪は、パニックになりかける頭を何とか冷静にしようと周りの状況をもう一度確認する。いつの間にか周りにいた人々も忽然と消えていた。 「な、何が起こっているの。」 わけが分からず、急いでその場に立ち上がると、 「何者だ。」 突如かけられたドスの効いた声に、驚いて振り返る。そして、その声をかけてきた人物たちを目にした途端、悲鳴を上げそうになってしまい、彼女は慌てて両手で口元を覆った。 「何だ、その格好は。異人の真似事でもしているのか。」 こちらを睨みつける男は、着物を着ていた。髪は総髪にし、腰には刀が差さっている。観光客のコスプレとは違う、凪は一目でそう思った。 「そんな怖い言い方はよしてくださいよ、土方さん。」 暗くて彼女は気付いていなかったが、男の後ろにはもう一人仲間がいたらしい。緊張感漂うこの場に相応しくないのんびりとした声の主に視線を向ける。 「大丈夫ですよ。取って食おうってわけではありませんから。」 男とは対照的な温和な物言いの青年に、冷や汗が流れる。目だけは笑っていない、とても冷たいものだった。 「こんな怪しい奴、見て見ぬふりはできんだろう。」 「相手はおなごですよ。」 「関係ない。」 「怖くて震えてるじゃないですか…ってあれ?」 凪は青年の言葉を最後まで聞くことなく、彼らに背を向けると、急いで駆け出した。足がもつれそうになるのを必死に我慢して、全速力で走る。 「は、早く、い、家に…」
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