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新選組
「縄で縛っておけと言っているだろ、総司。」
「おなごにそんな酷いことはできませんよ。周りの目もありますし。」
「こいつは逃げようとしたんだぞ。何か後ろめたいことがあるに決まっている。」
沖田総司と名乗った青年と、土方と呼ばれる男。彼らが本物の新選組というのならば、彼は間違いなく新選組副長である土方歳三だろう。凪は、沖田に手を握られたまま、彼らと共に町の中を歩いて行く。どこに連れて行かれているのか見当もつかなかった。ただ震えながら彼らについて行くことしかできない。
「大丈夫ですか?」
突然、沖田はぴたりと立ち止まると、凪の顔を見つめながら首を傾げる。
「ずっと震えていますが。」
「だ…」
「大丈夫なわけがない」自然と出そうになった言葉を、すんでのところで止めた。変なことを言って彼らを怒らせては大変だし、そもそもこの震えではまともに話すこともできないと思ったからだ。何も反応を示さない凪に、沖田が苦笑いを浮かべていると、
「尋問は屯所に帰ってからだ。」
土方が、沖田の手から凪の手を奪うように取り上げる。
「痛っ…」
そのあまりの痛さに、凪が思わず顔を歪ませていると、土方の整った顔が目の前に迫っていた。
「女、屯所に着いたら容赦はせんぞ。」
そのどこまでも恐ろしい顔に、凪は、土方が「鬼の副長」と呼ばれていた所以を知った気がした。
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