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第35話 氷解
謁見の間の玉座にはすでに国王様が座っており、部屋に入ってきた私たちを睨むように座っていた。
レノーは、私の手を離すと一歩前に出てその場に跪いた。
「父上、ただいま戻りました」
レノーがそう言うと、国王様は怒りをぶつけるように大声をあげた。
「何が「戻りました」だ! 勝手なことをしおって! 他国に、それもプリュイ王国へ行くなど!」
(怒られるとは思ってたけど、話を聞く前からこんなに怒ることないのに!)
私は、レノーを庇いたい気持ちをぐっと抑えてその場に立っていた。
レノーは、国王様の怒声をじっと下を向いて聞いていたが、怒声が止むとゆっくりと顔を上げた。
「勝手に他国に行ったことは謝ります。しかし、私は自分の行動を後悔していません」
レノーはそう言うと、立ち上がって私の手を取り自分の横に並ばせた。
「紹介します。こちらはプリュイ王国のラルム姫です」
「ラルムと申します。お目にかかれて光栄です、国王様」
レノーが私を紹介すると、国王様はびっくりした顔で私に言った。
「プリュイ王国のラルム姫だと? そ、それでは君はジャンの娘なのか?」
「はい」
「そんな話、信用できるか!」
国王様は、信じられないという顔で額に手を置いて玉座に寄りかかった。
そんな国王様に、レノーはお父様から預かった手紙を差し出した。
「これをプリュイ王国の国王様から預かって参りました。『サイラス』に渡してくれと……」
「何?」
国王様は、震える手でレノーから手紙を受け取るとそこに書かれている文字を懐かしそうに見た後、ゆっくりと封を開けた。
そして、手紙を読み始めると時折驚いた顔で食い入るようにそれを見つめていた。
手紙を読み終わった国王様は、何とも言えない表情で私を見て言った。
「そういうことだったのか……。ラルム姫、君が『涙姫』だったのだな」
「はい」
「ジャンのやつめ。相変わらず汚い字を書きおって」
さっきまで怒っていた国王様の表情が緩み、私はほっと胸を撫で下ろした。
レノーは私を見つめて少し微笑むと、国王様のほうに向き直った。
「父上、もう一つ大事な話がございます」
「うん? まだ何かあるのか?」
国王様が不思議そうな顔でレノーを見る。
レノーは、少し緊張しながらも真剣な目で国王様に言った。
「私は、ラルム姫を愛しています。結婚は彼女以外考えていません」
「は? なっ! 結婚? お前たちが?」
「はい。すでにプリュイ王国の国王様と王妃様には私の気持ちは伝えてあります」
国王様は、しばらくポカンとした顔で黙っていたが、急に笑い出した。
「こんなことがあるのか……。ふっ、わははは」
「父上……?」
「イリスが亡くなる前に言っていたんだ。いつかきっとレノーがこの国を変えてくれると。その時はそんなことあるわけがないと突っぱねていたんだがな」
「母上がそんなことを……」
レノーは、その話を初めて聞いたのかうつむき少し涙ぐんでいるようだった。
私は、うつむいたレノーの手を握った。
そして、国王様をしっかり見据えて言った。
「これからは私たちがサーブル王国とプリュイ王国の担い手となって頑張っていきます。まだまだ未熟な私たちですのでご教授願います」
「うむ。君はいい目をしている。レノーにはもったいない姫君だな」
国王様はそう言ってまた笑うと、横で控えていた側近に紙とペンを用意させた。
「私からもジャンに手紙を書こう。お互い忙しくなるがまだまだ倒れるなよ、と言っておいてくれ」
「はい! 父もとても喜ぶと思います!」
(レノーの気持ちをわかってもらえて良かった……)
暗い気持ちが晴れるように、私はありったけの笑顔でレノーを見つめた。
こうして、無事に国王様への報告を終えて私とレノーは謁見の間を後にしたのだった__。
レノーに寄りたいところがあると言われ、私はレノーと一緒にレノーの姉、ローズの部屋に向かった。
「レノー! おかえりなさい!」
ローズは、レノーを見ると嬉しそうに出迎えてくれた。
そして、私たちを部屋に招き入れるとお茶の用意をしてくれた。
そこには、レノーの大好物だというローズお手製のアップルパイも並んでいる。
カップに紅茶を注いでいるローズが、私に話しかけた。
「大方のことは聞きました。ラルムさん、これまでレノーと一緒にいてくれてありがとう。これからもレノーのことをお願いします」
「そんな。私のほうがレノーに守ってもらってばかりでした」
私は、これまでの出来事を思い出しながら言った。
しみじみとした空気が流れ、レノーが私とローズに笑いかける。
「ほら、ラルムも姉上もお茶を楽しもう! 姉上のアップルパイは格別なんだ。ラルムもたくさん食べてくれ」
「美味しそう! いただきます!」
美味しいアップルパイと紅茶をいただき、私とレノーは今まであった出来事をローズに話しながら楽しいひと時を過ごしたのだった__。
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