第29話 突然の逃走劇

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第29話 突然の逃走劇

 (レノー王子って……。どういうことなの?)  私が戸惑いながらレノーを見上げていると、レノーは私の一歩前に立って眼鏡の男に言った。 「どなたか存じませんが、別人だと思いますよ? では、失礼します。行こう、ララ」 「あ、うん……」  眼鏡の男に少し頭を下げて立ち去ろうとするレノーを、私は慌てて追いかけた。 そんなレノーと私の後ろから、眼鏡の男は声を張り上げて言った。 「証拠はあるんですよ! 国交を断絶しているプリュイ王国はもちろんですが、あなたがその他の国にも許可なく立ち入る事は禁止されている。その事はあなたが一番良くわかっているでしょう?」  レノーは、振り向かずに眼鏡の男の言葉を無視して歩いていく。 そんなレノーに、眼鏡の男はさらに言葉を続けた。 「あくまでもしらばくれるつもりですか……。それなら仕方ありませんね。私はトネール王国、王国警備隊、隊長のイザークです。あなたをスパイ容疑及び不法滞在で召し捕らせていただきます」  そう言うとイザークは、パチンッと指をならした。 イザークの指の音が合図だったのか、どこからともなくイザークと同じ制服をきた男たちが辺り一面に現れた。  (えっ?! 何? この人たち!)  私がそう思った矢先に、レノーは私の手を握り私の耳元で小声で言った。 「ララ。逃げるぞ」  そして、私の返事を待たずにレノーは私の手を引っ張り走り出した。 「逃げても無駄ですよ! 追え!」  イザークが警備隊の部下の男たちに命令すると、男たちは一斉にレノーと私を捕まえようと追いかけ始めた。 レノーと私は、遊園地から帰る客に紛れながら、宿があるプリュイ王国とトネール王国をつなぐ橋を目指して走った。 夜ということもあり、初めはレノーと私を探すのに苦労していた男たちだったが、やがて客足が少なくなるとすぐに追いついてきた。 「はぁ、はぁ……もう走れないわ……レノーだけ逃げて」 「君を置いて逃げられるわけないだろ! あともう少しで橋が見える。それまで頑張ってくれ!」 「ねぇ、どうしてレノーは逃げるの? 別人なんでしょ? さっきの話……」 「それは……」  レノーは、私の言葉に一瞬ためらったがすぐに私を見て答えた。 「橋を渡ったら全て話す。だから、それまで一緒に逃げてくれ」  レノーは、真剣な表情で私の目を見つめた。 私から目を逸らさないレノーの瞳を見て、私はこくんとうなづいた。 「わかったわ。レノーを信じてる」 「ありがとう」  レノーは、お礼を言った後私のおでこにチュッっとキスをすると、再び握っている手に力を込めた。 「橋を渡ってしまえば、もうあいつらは追って来られない。行こう!」 「ええ」  そうして、最後の力を振り絞って二人で橋に向かって全力で走った__。  暗い夜道を必死に逃げていたが、なんとか橋まで辿り着くことが出来た。 両国をつなぐ橋のため、長さは相当なものだ。 辿り着いたのはいいが、この橋を渡り切るまではとても気が抜けない。 しかし、迫り来る追手ももうすぐそこまで来ている。 「行こう!」  レノーと私は、目の前に薄らと見えているプリュイ王国を目指して橋を渡り始めた。 「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」  橋を渡り始めたレノーと私を発見した警備隊の男たちが、大声で叫んでいる。 私が後ろを振り向くと、そこにはライフル銃を構えた警備隊の男たちが走ってきていた。  (銃を持ってるわ!)  私は、その光景を見て怖くなり震えてしまう。 そんな私を、レノーは優しく引き寄せ 肩を抱いてくれた。 「俺がついてる。大丈夫だ」  レノーの言葉に、私はなんとか冷静さを取り戻したが、追ってくる警備隊はレノーと私の逃げる方向に威嚇射撃を始めた。  (!!!!)  プリュイ王国までは、あと数十メートル。 もうあと少しで橋のたもとにたどり着く、と思ったその時だった。 私の横を走っていたレノーが、その場にうずくまるように倒れた。 「くっ……」 「レノー???」  私が倒れたレノーを見ると、足のふくらはぎ辺りから出血している。 運悪く、威嚇射撃の流れ弾がこちらに飛んできたのだ。 「レノー! 大丈夫?」 「大丈夫だ……少し掠っただけだよ……」  レノーはそう言うと、持っていたハンカチで傷口近くを縛り止血をした。 そして、ゆっくりと立ち上がると私に言った。 「すまないララ……肩を貸してもらってもいいかな……」 「ええ! 私に掴まって!」  私は、怪我をしたレノーを支えながら橋のたもとに向かって歩き出した。 足を引きずるレノーは、時折痛みに耐えられず呻き声を上げている。  (早く怪我の手当てをしなきゃ! レノーに何かあったら私……)  レノーと私を追っている警備隊は、すでに橋の真ん中辺りまで迫って来ていた……。
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