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第3話 近隣三ヵ国
ライアン先生は、持っていた地図を私の目の前に広げ、地図を指差しながら説明を始めた。
「ここがプリュイ王国です。その周りを囲むように三ヵ国が隣り合っています」
「へえ、こう見るとプリュイ王国って結構大きいのね!」
「ええ。といっても、ほとんどが未開拓の森林なんですけどね。よく言えば、緑多い広大な領土を持つ国。悪く言えば、田舎です」
「そうなのね……知らなかった」
自分の国が田舎だと言われて少し落ち込む。
そんな私を見て、ライアン先生は笑いながら説明を続けた。
「はは。そんなに落ち込むことはありませんよ、ラルム様。ここが田舎だからこその良さがあるのです」
「良さ?」
「はい。我が国には年間何百万人もの観光客が訪れているのですよ。いわば、国自体がリゾート地のようなものです」
自然を求めてやってくる観光客が多いことから、この国は観光客相手の宿や店で成り立っているという。
「それに、プリュイ王国では天然の資源が豊富に取れるため、国外にも輸出しており、国の収入源となっています」
初めて知ることばかりで、私はうんうんと相槌を打つことしか出来ない。
ますます城の外へ出たい気持ちが強まっていった。
「ラルム様が城の外に出た時には、ぜひこの自然を満喫していただきたい。そう願っております」
ライアン先生は、そう言って恭しくお辞儀をしてから私にウインクをした。
「さて、次にお話しするのはお隣の国についてですが。まずはプリュイ王国の右隣にある国。『薫風(くんぷう)の国』と呼ばれているヴァン王国から説明いたしましょう」
「ヴァン王国……」
私は、初めて聞く国の名前を頭に詰め込み、地図をしっかりと確認した。
「ここ数年で物凄い勢いで近代化が進んだ国です。優秀な科学者やエンジニアが活躍しており、スマホやゲーム、パソコンなどもヴァン王国が開発したものです」
「そうなのね! じゃあ乙女ゲームもそこで……」
「乙女?」
「あ、ううん、なんでもないわ」
思わず口走ってしまった言葉を途中で飲み込んで誤魔化す。
ライアン先生は、少し探るような目で私を見たがそのまま説明を続けた。
「次はこちら。プリュイ王国の左隣にある、『迅雷(じんらい)の国』と呼ばれるトネール王国です。こちらの国は工業生産に力を入れている国ですね」
「工業?」
「はい、ヴァン王国が開発したものを工場で生産したり、他にも生活に欠かせないものを加工しています。トネール王国に入ると街中に工場が立ち並んでいますよ」
どこか懐かしむような言い方をするライアン先生が気になり、私は尋ねた。
「先生はトネール王国に行ったことがあるの?」
「まあ、行ったというか……私はトネール王国出身なのですよ」
「え、そうなの?」
「そうなのです。しかし、若い時に身体を壊しまして自然が多いプリュイ王国に移り住んだんです。それ以来、一度も帰っていません」
(先生にそんな過去があるなんて、昔から一緒にいるのに全く知らなかったな)
私が黙ってしまい、静寂に包まれた部屋の空気を変えるように、ライアン先生は咳払いをした。
「コホン。余計なことを話してしまいました。それでは続きをお話しいたしましょう。最後は、プリュイ王国の真下に位置する国。『肥沃(ひよく)の国』と呼ばれるソル王国です。こちらは、農業の国としてたくさんの農作物を栽培、収穫しています。プリュイ王国で流通している農作物はソル王国産のものが多いです」
「ここまで聞いて思ったんだけど、国によってそれぞれ特徴があるのね」
「いいところに気が付きましたね。四ヵ国はそれぞれ、情報技術、工業、農業、資源をお互いに提供し合っています。これは、四ヵ国同盟で決められたことです」
「同盟を結んでいるのね」
私がそう言うと、ライアン先生はうなづいた。
そして、ふと思い出したように小声で何かを言った。
「以前は…」
「え?」
「あ、いえ。何でもございません」
言う必要がないと判断したのか、ライアン先生は首を横に振った。
私もその時は特に気にせず、その後もライアン先生の授業を受け続けたのだった__。
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