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第31話 涙の再会
プリュイ王国側の橋のたもとから声が聞こえて、誰かがこちらに走ってくる。
聞き覚えがあるこの懐かしい声は、だんだんと私とレノーに近づいてはっきり聞こえるようになった。
「ラールームーさーまー!!!」
走ってきたのは、メイド服に身を包んだ少女であり、私の専属のメイドであるクレアだった。
「クレア!!!」
私がクレアの名前を呼ぶと、クレアは泣きながら私に飛びついてきた。
「ラルムさまーーー! よくぞご無事で……ぐすっ……心配したんですよ……生きていて良かった……ぐすっ……」
「大袈裟よ。私は大丈夫。この通り元気よ! それより、よくここに私がいるってわかったわね」
泣いているクレアをなだめながら、私は不思議に思い尋ねた。
「それは、星空だった空が急に嵐のような天気に変わったからです。雨の降り方も尋常ではなかったですし。お城の重鎮たちがこれはきっとラルム様が泣いてらっしゃるのではと大騒ぎで! それでプリュイ王国中を探したんです」
クレアはそう言いながら、ハンカチで涙を拭いた。
少し落ち着きを取り戻したクレアは、私の後ろにレノーが立っていることに気付いたようだった。
「ル、ルーカス王子!?」
レノーの顔を見てクレアがびっくりした様子でそう言うと、私に小声で尋ねた。
「ラ、ラルム様……あのー、そちらのイケメンはどなたでしょうか?」
「レノーよ」
「レノー?」
「ええ、私の恋人」
「こ、こ、こ、こ、恋人ぉぉぉ???」
クレアは、私の言葉に驚きすぎて倒れそうになった。
しかし、なんとか堪えてさらに小声で尋ねた。
「あの……レノー様は乙女ゲームのルーカス王子にそっくりですよね……」
「そうね。私も初めてレノーに会った時驚いたわ」
「これって、もしかして『運命の出会い』ってやつじゃないんですか? いやぁ、まさかラルム様にそんな未来があったなんて……」
クレアが少し興奮気味に話し出すと、後ろでそれまで黙って聞いていたレノーが私の横に並んだ。
そして、クレアに丁寧にお辞儀をしながら微笑んだ。
「初めまして。サーブル王国、第一王子のレノー・シュバリエと申します」
「初めまして! クレアと申します。ラルム様がお世話になったようで、本当にありがとうございました」
クレアは、微笑むレノーに少し頬を赤らめながらお辞儀をした後、あることに気付いてもう一度私を驚いた顔で見た。
「えーと。聞き間違えがなければですが。レノー様は王子様なのですか?」
「そうよ」
「えええ!!! いや、乙女ゲームそのものじゃないですか! なんなんですか、その展開は!」
「落ち着きなさい。恥ずかしいわよ」
私とクレアのやりとりに、レノーは笑いを堪えきれずに笑い出した。
「あはは。君たちは本当に友達のように仲がいいんだな」
「そうなの。毎日こんな感じで退屈しなかったわ。クレアには本当に感謝してる。クレアのおかげで私はお城を出る決意が出来たんですもの」
私がそう言ってクレアを見ると、クレアは複雑そうな表情で笑った。
「ははは……私はそんなつもりで乙女ゲームをラルム様に紹介したわけではないんですが……。でも、ラルム様が幸せなら私も幸せなので! あとは……お城に帰って国王様と王妃様にどう説明するか、ですよねぇ……」
色々あってお父様とお母様のことはすっかり忘れていた……。
きっとこっぴどく叱られるだろう。
それを考えると頭が痛くなる。
落ち込んで下を向いてしまった私の肩を、レノーはそっと自分のほうに引き寄せた。
「君一人に説明をさせるつもりはないよ。俺も国王様と王妃様に会わせていただきたい。
初めはそのつもりで国を出てきたんだから」
「ありがとうレノー。あなたが一緒にいてくれたら心強いわ」
レノーがいてくれる。
それだけで、なんだか気持ちが落ち着く。
「でも、その前に怪我の手当てをさせて! クレア、レノーは足を怪我してるの」
「え! 気付くのが遅れて申し訳ございません! すぐに人を呼んで参りますので!」
クレアはそう言って、橋のたもとにいる他の使用人を呼びに言った。
その間、私とレノーは二人で空を見上げる。
この頃にはあんなに降っていた雨はすっかり止んで、空には再び星が煌めき始めていた。
そうして私は、何ヵ月ぶりにお父様とお母様が待っているお城に帰ることになったのだった……。
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