第32話 帰宅報告

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第32話 帰宅報告

 私とレノーは、クレアとその他の使用人たちと一緒にお城に帰ってきた。 久々に見上げるお城は堂々とそこに建っており、こんなに大きかったっけ? っと少し圧倒されるほどだ。 多分、普通の暮らしを経験して余計にそう思うのだろう。 「では、初めに国王様と王妃様にお伝えしてきますね」  クレアはそう言って、お城の中に入っていった。 お父様とお母様はどんな反応をするだろう。 不安でドキドキしてくる。 そんな私の不安が伝わったのか、レノーがそっと私の手を握った。 「大丈夫。俺がついてる」  レノーは、私を見下ろしながら優しく笑ってそう言った。 私も笑顔でレノーにうなづく。 すると、お城の中からクレアが戻ってきて私とレノーに言った。 「国王様と王妃様にお会い出来ることになりました。その前に、ラルム様はお召し物を着替えていただき、レノー様はお怪我の手当てとお着替えをしていただきます。では、こちらへ」  クレアに続いてお城の中に入ると、広い玄関から伸びる廊下に何人もの使用人たちがずらっと並んでいた。 「おかえりなさいませ、ラルム様」  私とレノーが廊下を通ると、使用人たちは口々にそう言ってお辞儀をする。 いつもの見慣れた光景に、帰ってきたんだと実感した。  自室に戻り着替えを済ませると、私は隣の部屋で怪我の手当てと着替えをしているレノーに声を掛けた。 「レノー? 怪我の手当てと着替えは終わった?」 「ああ」 「じゃあ部屋に入るわね」  ガチャ  (わぁ……)  私が部屋に入ると、そこには王子服に身を包んだレノーが立っていた。 そのよく似合っている姿に見惚れてしまう。 私がボーっとレノーを見ていると、後ろからクレアが私に言った。 「はいはい。レノー様に似合うお召し物があって良かったです。ラルム様が見惚れるのもわかります」  クレアは、そう言って一人でうなづいている。 すると、レノーは私の前まで来て照れ臭そうに笑った。 「どうかな? 俺に似合ってるか?」 「とても似合ってるわ。レノーって本当に王子様なのね」 「はは。誉め言葉として受け取っておく。君もとても素敵だ、ラルム」  (!!!)  急に本当の名前を呼ばれ、胸がキュンと震える。 不覚にも顔を赤らめてしまった。 そんな私を見て、クレアがしみじみ言った。 「すごいですね、レノー様。このラルム様をここまで乙女に出来るとは……。(わたくし)、レノー様とラルム様のご結婚の際には張り切ってお世話いたしますので! あー、楽しみです!」 「結婚って……。まだ先の話でしょう?」  私はそう言いながら、お母様からお見合いをさせられたことを思い出す。 お父様もお母様も私が結婚適齢期だと思っているのだろう。 そりゃ、私も結婚相手がレノーなら嬉しい。 でも、レノーはどう思っているのかわからない。 クレアが嬉しそうに語っているのを見つめながら、レノーを横目で見る。 レノーは、クレアの話を笑顔で聞いているだけだ。 私は、小さく頭を振った。 今は結婚のことは考えるのはやめよう。 その前に、お父様とお母様にきちんと話をしないと……。 そんなことを思いながら時間となり、私とレノーはお父様とお母様の待つ部屋に向かったのだった__。           ☆ 「国王様、王妃様。ラルム様とレノー様をお連れいたしました」  クレアはそう言うと、お辞儀をして部屋を出ていく。 出ていく途中で、私に小さくガッツポーズをしたクレアに勇気づけられた。 「お父様、お母様。ただいま戻りました。勝手にお城を抜け出してしまい申し訳ありません」  私が二人に謝ると、お母様はびっくりしたように私を見て言った。 「あら、ラルムがそんなに素直に謝るなんて。初めてのことじゃない? ねぇ、あなた?」  お母様が、お父様に同意を求めて話しかけるが返事がない。 「あなた? ちょっと! 泣いてらっしゃるの?」  見ると、お父様は私を見て密かに泣いている。 「ラルム……無事で良かった……」  お母様は、それを見て呆れて言った。 「泣いている場合ではないでしょ! ちゃんと叱ってくださいな」 「無事に帰ってきたんだからそれでいいじゃないか」 「全く。ラルムに甘いんだから……。ところで、そちらの御方は?」  お母様は、私の後ろに立っているレノーを見て私に尋ねた。 私がレノーのことを二人に紹介しようとした時、レノーが私の肩に手を置いた。 見上げると、レノーは私にうなづく。 そして、私の横に並ぶとその場に跪いた。 「お目にかかれて光栄です、国王様、王妃様。私は『サーブル王国』の第一王子、レノー・シュバリエと申します。ラルム姫にはこれまで大変お世話になりました」  レノーが挨拶をすると、それまで泣いていたお父様が驚いた顔で言った。 「『サーブル王国』だって? では、君はサイラスの息子なのか?」 「あ、はい。確かに私の父はサイラスと申します」 「なんてことだ……」  お父様は、苦虫を噛み潰したような顔で頭を振った……。
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