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第36話 誓いのキス
青く澄み渡った空。
晴天のプリュイ王国は、街中がお祝いムードで溢れていた。
今日は、私とレノーの結婚式だ。
あれから、プリュイ王国とサーブル王国の国交回復の調印式がプリュイ王国のお城で行われた。
久しぶりに会ったサーブル王国のサイラス国王様とお父様は、何年も会ってなかったとは思えないほど、すぐにお互いに憎まれ口を叩きながらも笑顔で抱き合っていた。
そんな姿を見て、私とレノーはとても感動したのだった。
結婚に関しては、私が一人っ子ということからレノーが婿としてプリュイ王国に来ることになった。
レノーの姉のローズから「サーブル王国は私に任せて!」というお言葉を頂けたのも、大きかった。
結婚式の準備は主にお母様の指示で行われ、ティアラや身につける宝石、カラードレスなどは私の意見も取り入れつつ決まっていった。
しかし、ウエディングドレスはレノーの母、イリスが着たものを手直しして着ることになった。
式当日、ウエディングドレスに袖を通すとなんだか見守られているような不思議な気持ちになった。
(私、必ずレノーと幸せになります。見守っていてください)
私は、心の中でそうつぶやくと愛する人が待つ大聖堂のドアの前に立った__。
プリュイ王国の伝統ある大聖堂でいよいよ式が始まった。
大きく重厚なドアが開くと、緊張しているお父様のエスコートで真紅のバージンロードをレノーが待つ祭壇まで進んでいく。
聖堂内のステンドグラスが神々しいほど美しく輝き、私とレノーの門出を祝ってくれているように見える。
見知った顔があちこちでこの式を見守っていてくれるのがわかり、胸が温かくなった。
メイドのクレア、ライアン先生、お見合いをした三人の王子たち、宿でお世話になったシモンさんとエレーヌさん……。
「ラルム様〜〜! とてもお美しいです〜〜ぐすっ……こんなに立派な花嫁になられて……ぐすっ」
「クレアさん。お静かに。声が大きいですよ」
泣き出したクレアを、ライアン先生が注意している。
「今回のお見合いは私たちの完敗でしたね」
「いやはや、うちの国がやった事を不問にしていただいて恐縮です……」
「ラルム姫が幸せで本当に良かったです。でも……ちょっと悔しいかな」
ヒューゴ王子、アラン王子、ジョルジュ王子がそれぞれの思いの丈を語っている。
「レノーくん……いや、レノー王子か……それに、ラルム姫……なんとも、狐につままれたような話だな」
「本当ね! あの二人が王子様とお姫様で……結婚までしてしまうなんて!」
未だに信じられないという顔で、シモンとエレーヌが私とレノーを見つめている。
私は、そんなみんなの間を感慨深く思いながら通り過ぎる。
そして、私に優しい眼差しを送り背筋を伸ばして立っているレノーの元に到着した。
お父様が私をレノーに託す。
私は、レノーから差し出された腕に自分の手を絡めた。
レノーは私を見つめ、小さな声で言った。
「すごく綺麗だ……」
私は、照れて頬が赤くなるのを感じながらレノーと微笑み合う。
そして、二人で祭壇の前にいる神父と向かい合った。
「レノー王子。貴方はラルム姫を生涯の伴侶とすることを誓いますか?」
神父の言葉に、レノーは力強く答えた。
「はい、誓います」
神父は、次に私のほうを向いて尋ねた。
「ラルム姫。貴方はレノー王子を生涯の伴侶とすることを誓いますか?」
お城を出てからこれまでのことが思い出される。
そこには、常に笑顔のレノーがいてくれた。
「はい、誓います」
私がそう言うと、隣に立っているレノーがいつもの笑顔をくれる。
嬉しい気持ちで胸がいっぱいになっている中、お互いに指輪の交換をした。
「では、誓いのキスを」
神父の言葉に、レノーが私のほうを向き一歩前に出た。
そして、ベールをゆっくりと上にあげた。
ベールがなくなってレノーの顔がはっきり見える。
いつになく緊張しているレノーに思わず笑ってしまうと、レノーも緊張がほぐれたのか穏やかな表情になり、私の肩に両手を置いた。
そして、私をまっすぐに見つめて言った。
「愛してる」
レノーの言葉に、私もまっすぐレノーを見つめて答えた。
「私も……」
その瞬間、レノーと唇が重なった……。
大聖堂の大きな鐘の音がプリュイ王国中に響き渡る。
外の世界を知らなかった私の、まるで運命に導かれたような恋物語を祝福するように、いつまでもいつまでも__。 完
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