ふとした偶然

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ふとした偶然

 開け放たれた窓の部屋の中で、「義明なぜ何度も馬鹿な真似をするの」「父さんに会いたいからさ」「だからって、死ぬような真似はよして頂戴。母さんは義明が心配で心配で」「父さんは天国に行ったんだ」「だったらなんで。それじゃああなたは天国に行けないのよ」「僕は楽に天国に行くつもりはないよ。今まで父さんや母さんに迷惑をかけたからね。地獄に行って閻魔大王を狩りに行こうと思って。それを土産に天の御国に旅立つんだ」「支離滅裂よ、それは」「父さんもそうだったさ。支離滅裂。いってることとやってることがてんでバラバラ。タバコを吸いながら、タバコなくなればいいとか」「そんなこと今は関係ないでしょう」「いや、人生は煙のようなもの。モクモクと煙っていれば人から煙たがられ、亡くなると、スッキリ顔でいい気分のつもり」「義明」「なんだい母さん」「煙」「本当だ煙だ」「お父さんがタバコ吸ってるのかもね」「煙の匂いで思い出す。僕の人生は苦くて甘い」義明の父への会いたい気持ちは、窓から入ってきた、隣のベランダで気持ちよくタバコをふかしている中年男性によって叶えられた。  了
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