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最終話 僕のヒーロー
店を飛び出し、僕は全速力で走っていた。
目からは涙が溢れて止まらなかった。
「賢哉!どこ行くんだよ、待てよ!」
花田さんが僕を追いかけて来た。
僕の走るスピードよりも、花田さんは完全に速かった。
僕は花田さんに腕を掴まれて止まった。
「何で泣いてんの?」
会社の近くに、小さな空き地があって、僕と花田さんは空き地に置いてあった古いベンチに腰を掛けた。
僕は花田さんに、原咲さんの家での出来事を話した。
「僕、原咲さんの家で、一枚の写真を見つけたんです。その写真には原咲さんと仲良く手を繋いでいる男性が写っていました。
僕は、その写真を見て何故か心がチクりと痛んだんです。
さっきだって、桜井くんと肩を組んでる姿を見て、モヤってなってしまって…。
勝手に涙が出るんです…。
花田さんと付き合ってるんだろって言われて…
ムッとなったんです。
ずっと、僕はおかしいんですよ…。
何故なんですか?
この気持ちが何なのか、モヤモヤしてスッキリしないんです…。
僕はどうしたらいいか分かりません…。」
花田さんは大きなため息をついて、僕を見つめた。
「本当に分からないのか?
さんざん俺にカッコいいとか、ヒーローとか
言ったくせに、自分の本当の気持ちが分からなくなるなんてな…。
賢哉はそんなに、臆病なやつだったなんて、
ガッカリだよ…。
お前は…一番大切な事を忘れてないか?
心がチクりとしたり、モヤモヤしたり、ムッと
なったりするのは、その人が特別だからなんじゃないのか?
俺にヒーローって簡単に言えたのは、特別じゃないからだよ。それはタダの感想なんだ。
カッコいいは誰にだって簡単に言えるんだ。
アイドルとか芸能人と同じでそれは、タダの憧れなんだよ。
お前は、本気で俺の事が好きじゃないって事…。
悔しいけど、お前の心の中には本当のヒーローが存在するんだ。
分かったか?」
花田さんの言葉で、僕は目が醒めた気がした。
「僕の…本当のヒーロー…。
それは…原咲さん…。」
「そうだよ…。
お前は…真宙さんの事が好きなんだよ…。
分かったら…ぐずぐずしてないで、
さっさと誤解を解いて来いよ!
勘違いされたままでいいのか?
誰かに取られても知らないぞ。」
花田さんは笑顔で僕の背中を押してくれた。
僕のヒーローはやっぱり優しくて、強い人だった。誰よりも僕を分かってくれた。
大切な人だ。
僕は、花田さんに感謝して、また走り出した。
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