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「この者の処遇は、私にお任せください。この者が儀式なく落ちてきた理由を、わたくしジルクード・エヴァ・ルが必ず調べて明らかに致します」
神殿長が王様の足元に跪くと、周囲がざわめく。跪く行為がこの男にとって身分不相応のへりくだった態度なのだということが、皆の顔つきでわかった。ふたりの少年もオロオロしている。
「……そうであるか」
神殿長よりもずっと年若い王様は、その気迫に押されたように小さく答えた。
「では、そなたに一任しよう。この者がここにきた理由を調べ、私に報告するように。その後でこの者をどう扱うかを決定いたそう」
王の言葉に、僕の首の上にあった剣がやっと引っこめられる。シャン、と音を立てて刃が離れると、僕は安堵にグタリと突っ伏した。
その姿を桃谷先輩が見おろしてくる。ケープからのぞく瞳には、やはり僕に対する怯えしかなかった。
いったいどういうことなのか。
「ハルキ、どうした? 震えているではないか」
王様が先輩の肩を抱いて優しくたずねる。
「……少し、気分がすぐれなくて」
「おおそうか。ではもう城に帰るとするか。少し休むとよい」
「はい……」
「では我らは城に戻る。神殿長、あとは頼んだぞ」
「はっ」
神殿長は跪いたまま返事をした。
王様が周囲の者を従えて、ゾロゾロときた道を引き返していく。やがて姿が見えなくなると、やっと神殿長は立ちあがった。
「ふぅ、何とか大きな騒ぎにならずにすんだようだな」
そして僕のもとにやってくる。
「大丈夫か?」
まだ蒼白だった僕を、大きな手で支え起こしてくれた。
「はぁ。……どうなることかと思いました」
剣を突き立てられたことと、桃谷先輩に拒否されたショックで、頭が混乱している。
「とりあえず、牢に入れられることはなくなったようだ。まあ待遇はよくないが、ここには残れたんだ。一応安心していい」
「はい。ありがとうございます」
僕は助けてもらった礼を言った。
「では、まず着がえるとするか。びしょ濡れだからな。それから、ここにきた経緯でも聞こう」
消沈しながらも彼と一緒に歩き出そうとして、膝に力が入らずカクンとなり、その場でへたりこんでしまう。
「……あ」
さっきの衝撃で腰が抜けてしまったらしい。そんな僕を神殿長が同情を浮かべた目で見てきた。
「まあ殺されそうになったんだからな。仕方ない」
そうして逞しい腕で、ヒョイと横抱きにしてくる。
「――あっ」
「なんと。軽いなあ君は」
やすやすと抱え直して感嘆の声をあげた。
「まるで生まれたての仔羊のようだ」
かるく笑って言うものだから、僕は恥ずかしさに彼の腕の中で縮こまった。
こんな子供みたいな抱っこなんて、されたことない。しかも素敵なオジ様に。焦って赤面するこちらに構わず、神殿長は少年らに命令した。
「アニ、この人に着がえを用意してやれ。それから、オト、お前は食堂に何か飲み物を準備しておきなさい」
「はい、わかりました」
ふたりが揃って返事をする。
そうして僕ら四人は庭を横切り、建物のほうへと歩き出した。
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