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しかし召喚師による召喚が可能であるならば、魔法や魔術が存在している可能性もある。もしかしたら魔物もいるかも。それはちょっと嫌だなあと思いつつテーブルの間を進んだ。
奥ではオト少年が、長テーブルにピッチャーとゴブレットを用意して僕らを待っていた。
「まあ、座れ」
促されて、対面に腰かける。神殿長はゴブレットに淡い桃色の液体を注ぎながらたずねてきた。
「ではまず、君の名前をきこうか」
「はい。僕は、仲島倫多といいます」
「ナカジマ・リンタか。名はどちらだ」
「倫多です」
「ならば、リンタと呼ぼう。いいか?」
「構いません」
神殿長はふたつのゴブレットを満たすと、ひとつを僕に差し出してきた。
「私の名前はジルクード・エヴァ・ル。ここの神殿長を務める者だ。こっちにいるのはアニとオト。ここの神官だ」
僕は頭をさげた。この世界の挨拶方法は知らなかったので、日本流だ。
それにふたりも丁寧に頭をさげてきた。なるほど挨拶の流儀は同じなのか。
「お世話になります、神殿長様、アニさん、オトさん。どうぞよろしくお願いします」
僕の挨拶に、神殿長が微笑んだ。
「私のことはジルクードと呼んでくれ。まあ、君が降神と正式に認められたら、呼び方は『リンタ様』になるだろうがな」
「はあ」
なれるとは思わなかったので、曖昧に返事をしておく。
「ここは降神様を召喚するための召喚神殿だ。住んでいるのは私とアニとオト、そして数人の召使いのみだ。君は王には降神と認められなかったが、私は君が落ちてきたのをこの目で見ている。スマホも光って画面に御神託が出ていたのも確認した。だから一応、異世界からの客人として扱おう。捕らえた訳ではないので敷地内では自由に行動してもいい。けれど、外へは無断で出ないように」
「わかりました。ジルクードさん」
「万一逃げたら、王の兵が君を追うことになる」
「了解です」
出てもどうしていいかわからないだろうから、多分素直にここにいる。この人のもとに入れば安全だろうし。
僕はゴブレットに手を伸ばした。ふわりといい香りが漂うが、これはアルコールの匂いだ。
「あの、これ、お酒ですか」
「ああそうだが」
ジルクードさんが一口飲んで答える。
「すいません、僕、お酒は飲めないんです」
「飲めない?」
不思議そうな顔をされた。そんな人間がいるのかという反応だ。
「はい。あの、僕のいた世界では、二十歳になるまでお酒は禁止されているのです。だから飲んだことがないんです」
「二十歳? なるほど。そう言えばハルキ様のときも同じような話を聞いた気がする。では、君はいくつなんだ?」
「十八歳です」
「じゅうはっさい!」
三人が一緒に驚く。それにこっちもビックリする。
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