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「なんと。もっと子供かと思っていた」
「僕らと同じくらいかと」
アニさんとオトさんが顔を見あわせる。
「おふたりはおいくつなんですか」
「僕らは十二と十一ですよ。オトが十一」
ということは、僕は十二歳ぐらいに見られていたのか。それはあんまりな勘違いだ。
「ちなみに神殿長様は三十四歳です」
「私の歳はいい」
ジルクードさんが脇に控えるオトさんに言う。
このイケオジは三十四歳なのか。なるほど大人の落ち着きと余裕が感じられる。話し方や雰囲気にも嫌味がなく、性格がよいのも見て取れた。さっきの王様とは大違いだ。
「この世界では子供も酒を飲むが、リンタの世界では禁止されているのか。それは子供に厳しい世界だな」
「いや、むしろ優しい世界では」
僕の呟きは聞こえていなかったようで、彼がオトさんに命令する。
「庭に食べごろの果実がいくつかなっていただろう。それをもいで持ってきてやりなさい」
「はい。わかりました」
オトさんは犬のように一目散に駆けていった。
ジルクードさんはまた酒を一口飲むと、僕に向き直った。
「それでリンタはどうやってこの世界にきたんだ? 何か特別な術でも使ったのか?」
「あ、いいえ。そうではなく――」
僕はここにきた経緯を、順を追って説明した。桃谷先輩が事故にあった場所にいき、同じ時間にトラックにはねられたことを。
彼は最後まで黙って聞いていたが、話し終わると腕を組んで「うーむ」とひとつ唸った。
「とらっくという物体にぶつかりそうになって飛ばされたというのは、ハルキ様のときと一致しているな。しかし日付は違っている」
「え?」
「ハルキ様がこの世界にこられたのは、一年以上前のことだ」
そうだな、と隣に立つアニさんに確認を取る。
「はい。ハルキ様の召喚の儀が成功したのは、昨年の十三月三日のことでした」
「十三月」
どうやらこの世界は、元いた世界と暦が異なるようだ。僕がそのことを説明すると、ジルクードさんも納得する。
「ではリンタはそちらの世界から、ハルキ様と同じ方法でこちらに飛ばされてきたんだな。こちらでは召喚の儀をしていないのにだ。この仕組みは私ではわからん。明日にでも召喚師のところにいって相談してみよう」
言いながら薄い髭の生えた顎を手でさすった。
「それで、君がそんな無謀なことをしてまで、ハルキ様を追いかけてきた目的は何なのだ」
問いただされて、返答に詰まる。
「……それは」
言いづらかった。先輩のことが好きで追いかけてきたなんて。
今まで僕は、同性を好きになるという性指向を他人に明かしたことはない。ずっと心の内に隠してきた。しかしさっきの先輩の冷たい態度を思い出すと、悲しみがふつふつと湧いてくる。
先輩は僕を拒否した。嘘までついて。
理由はわからなかったが、どうやら先輩にとって、僕は邪魔者になっているらしい。
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