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そう考えると、何もかもがどうでもよくなってくる。どのみち理由は明かさねばならないのだろうし、異世界の人たちに自分の恋愛傾向をどう思われようと構わないという自棄な気分にもなる。
「……桃谷先輩のことが、ずっと好きで。それで、もう一回、どうしてもお会いしたかったんです」
一言喋れば、箍が外れたように次々と言葉が出てきた。
「先輩のいない人生なんてもう考えられなくて、会えないなら死んでも構わないかってくらい絶望して。それで、トラックでの転移に命を賭けたんです。もしかしたら、万が一の可能性でも、成功するかもしれないんじゃないかって……」
話している間に、目に涙がにじんでくる。先輩は僕のことを忘れてしまったんだろうか。
高校時代、ふたりですごした時間が思い出される。友人のいない僕に、ただひとり親切にしてくれた桃谷先輩。
グス、と鼻を鳴らすと、ジルクードさんの表情が変わった。
「そうか」
男らしい眉をさげて、小さく呟く。
「ではリンタは、ハルキ様に片想いをしていて、会いたい気持ちを抑えきれずに、ここにやってきたのだと言うのだな」
僕はコクンと頷いた。
「なるほど。よくわかった。そういう気持ちは理解できないでもない」
大人なジルクードさんは、まるで自分の人生と重ねあわせたかのような口調でそう答えた。僕の性指向を理解してくれたのか、それともただの同情なのかわからなかったが、拒否や嫌悪は持たれなかったようだ。
「まあとりあえず、理由はわかったから。今日はここでゆっくり休みなさい。明日からのことはまた考えていこう」
「はい。……すみません」
そうしていたらオトさんが戻ってきた。大きな籠を手に抱えている。
「どうぞ」
籠には山盛りの果実があった。赤や紫や黄色の見たことのない形ばかりで、甘い匂いがする。
「好きなだけ食べたまえ。君はとても身体が小さいし痩せ細っている」
「ありがとうございます」
葡萄に似た小ぶりの果実をひとつ摘まんで口にいれる。甘くてとても美味しかった。
「すごく美味しいですね、これ」
僕が感嘆の声をあげると、ジルクードさんが同情的な目で見てくる。
「そんなものでもうまいと喜ぶとは。前世では食うに困った生活をしていたのか?」
「そんなことはないですが、……まあ、贅沢とは言えませんでしたね」
しんみりと告げると、三人とも可哀想な捨て犬を見るような顔になった。
「食べなさい、たくさん。ここにいる間は、食事と寝床は保証しよう」
ジルクードさんから、親切な言葉をもらう。
「はい。助かります」
僕は彼にありがたく礼を言った。
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