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「リンタさん、いきますよ」
「あ、はい」
先を歩いていたアニさんに呼ばれて、僕は急いで彼の元へと駆けていった。
食堂に着くと、先ほど座っていた場所に夕食の準備が整えられていた。ジルクードさんはもう杯を傾けている。
「リンタ用に、果実を搾っておいた。これを飲みなさい」
ベンチに腰かけると、ピッチャーからゴブレットに淡い紫色の液体を注がれた。
「あ、わざわざありがとうございます」
「いや。構わん。これで乾杯もできるだろう」
食卓にはふたりの神官も一緒についた。四人の前にはパンにスープ、ローストした肉、野菜の盛りあわせなどたくさん並んでいる。皿とナイフも準備されていた。しかしフォークはない。もしかして手づかみなのかな、と心配したら、僕の皿の横に二本の棒がちょこんとおかれているのに気がついた。
「これは?」
「それはリンタが使うだろうと思って、さっき私が作ってきた」
「もしかして、箸ですか」
「そう、たしかその名前だ。ハルキ様がこちらにいらしたときに、それを欲しがられたのだ」
僕は細長い二本の棒を握りしめた。
「ありがとうございます。すごく嬉しいです」
感激してそう言うと、ジルクードさんが「そうか」といって微笑む。
すると男らしい顔が、ふわりとほころんだ。目が細まり口のはしに小さな皺が刻まれる。何とも魅力的な笑顔だった。僕の心臓がトクンと波打つ。
「さあ、ではまず乾杯しようか。新たな訪問者に。我らと共に、リンタにも祝福があるように」
ジルクードさんがゴブレットを掲げて乾杯のかけ声をかけた。それに倣ってアニさんとオトさんも杯を持ちあげる。この世界にも乾杯の風習はあるらしい。僕も彼らを真似てゴブレットを差し出した。
果実を搾ったジュースを一口飲むと、爽やかな酸味と、香り豊かな甘味が口いっぱいに広がる。
「美味しい……」
こんな不思議なジュースは飲んだことがない。
「気に入ったか」
ジルクードさんが笑顔で言った。
「はい。初めての味です」
「そうか。こちらではよくある赤ん坊用の栄養ジュースだ」
「赤ん坊用ですか」
さすがに幼児には酒を飲ませないらしい。というか赤ん坊扱いなのか。
まあ美味しいからいいか。僕はもう一口ジュースを飲んだ。
「さあ、メシも食え。たくさん食べて大きく育て」
「あ、はい」
成長期は終わりつつあるけれど、勧められたので一応頑張って食べてみる。
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