6 初ごはん美味しい

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「リンタさん、いきますよ」 「あ、はい」  先を歩いていたアニさんに呼ばれて、僕は急いで彼の元へと駆けていった。  食堂に着くと、先ほど座っていた場所に夕食の準備が整えられていた。ジルクードさんはもう(さかずき)を傾けている。 「リンタ用に、果実を搾っておいた。これを飲みなさい」  ベンチに腰かけると、ピッチャーからゴブレットに淡い紫色の液体を注がれた。 「あ、わざわざありがとうございます」 「いや。構わん。これで乾杯もできるだろう」  食卓にはふたりの神官も一緒についた。四人の前にはパンにスープ、ローストした肉、野菜の盛りあわせなどたくさん並んでいる。皿とナイフも準備されていた。しかしフォークはない。もしかして手づかみなのかな、と心配したら、僕の皿の横に二本の棒がちょこんとおかれているのに気がついた。 「これは?」 「それはリンタが使うだろうと思って、さっき私が作ってきた」 「もしかして、箸ですか」 「そう、たしかその名前だ。ハルキ様がこちらにいらしたときに、それを欲しがられたのだ」  僕は細長い二本の棒を握りしめた。 「ありがとうございます。すごく嬉しいです」  感激してそう言うと、ジルクードさんが「そうか」といって微笑む。  すると男らしい顔が、ふわりとほころんだ。目が細まり口のはしに小さな皺が刻まれる。何とも魅力的な笑顔だった。僕の心臓がトクンと波打つ。 「さあ、ではまず乾杯しようか。新たな訪問者に。我らと共に、リンタにも祝福があるように」  ジルクードさんがゴブレットを掲げて乾杯のかけ声をかけた。それに(なら)ってアニさんとオトさんも杯を持ちあげる。この世界にも乾杯の風習はあるらしい。僕も彼らを真似てゴブレットを差し出した。  果実を搾ったジュースを一口飲むと、爽やかな酸味と、香り豊かな甘味が口いっぱいに広がる。 「美味しい……」  こんな不思議なジュースは飲んだことがない。 「気に入ったか」  ジルクードさんが笑顔で言った。 「はい。初めての味です」 「そうか。こちらではよくある赤ん坊用の栄養ジュースだ」 「赤ん坊用ですか」  さすがに幼児には酒を飲ませないらしい。というか赤ん坊扱いなのか。  まあ美味しいからいいか。僕はもう一口ジュースを飲んだ。 「さあ、メシも食え。たくさん食べて大きく育て」 「あ、はい」  成長期は終わりつつあるけれど、勧められたので一応頑張って食べてみる。
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