469人が本棚に入れています
本棚に追加
食の細い僕は、食べることにあまり執着がない。今までさほど恵まれた食生活をしてこなかったためだ。ファストフードやインスタントの食品を、腹が減ればエネルギー補給に仕方なく腹におさめる。そんな生活をずっと続けていた。
「あ、美味しい」
一口食べた肉のローストは、香ばしくて塩気もちょうどよかった。香辛料もよく効いている。
「そうか。ならよかった」
隣に添えられた野菜も、シンプルな味付けだがとても美味しい。これは素材が新鮮だからだろう。未知の野菜だったが、歯ごたえがよくほんのりとした甘味もあった。
「これも美味しいです」
僕は箸を使ってパクパク食べた。その姿を、目の前の三人が興味深げに見てくる。
「……?」
どうしたのかと思って見返すと、オトさんが心底驚いたようにもらした。
「すごいですねえ、そんな細い棒で、落とさず上手に食べられるなんて。まるで曲芸です」
アニさんもビックリした顔をしている。
「突き刺して食べるのだとばかり思ってましたが、きれいに挟んで持ちあげるなんて。僕には到底真似できませんよ」
感心した様子でうなずかれて、ちょっと恥ずかしくなった。
「これくらい、前の世界では普通でしたので」
「そうなんですか。そこまで上達するにはきっと厳しい訓練が必要だったでしょうに。食べ方にも高い技術を要求するとは、なんと礼儀正しい世界なんでしょう」
「いやまあ……。礼儀ではあるんでしょうけどね」
箸の持ち方でこんなに褒められるとは。
「そう言えばハルキ様も、はしを使って優雅な手つきで食事をされていたな」
ジルクードさんが肉の塊を手でつかみ、ナイフで大雑把に切り分ける。肉片に刃先をブスリと刺すと、そのまま持ちあげてかぶりついた。
「……」
何ともワイルドな食べ方だ。見ればアニさんとオトさんも同じように食べている。野菜は手づかみだ。
なるほど彼らにしてみれば、箸はそりゃあ優雅に見えるだろう。
「手が汚れなくて便利なんですけどね」
肉汁のついた手を舐める彼らに圧倒されて、僕は愛想笑いで肩をすくめた。
食べ方は前時代的だが、しかしここの料理はすこぶる美味しい。パンはフワフワでスープも濃厚。
デザートにフルーツタルトのような菓子も出てきて、最後にはお腹がいっぱいになって、僕は大いに満足したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!