6 初ごはん美味しい

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 食の細い僕は、食べることにあまり執着がない。今までさほど恵まれた食生活をしてこなかったためだ。ファストフードやインスタントの食品を、腹が減ればエネルギー補給に仕方なく腹におさめる。そんな生活をずっと続けていた。 「あ、美味しい」  一口食べた肉のローストは、香ばしくて塩気もちょうどよかった。香辛料もよく効いている。 「そうか。ならよかった」  隣に添えられた野菜も、シンプルな味付けだがとても美味しい。これは素材が新鮮だからだろう。未知の野菜だったが、歯ごたえがよくほんのりとした甘味もあった。 「これも美味しいです」  僕は箸を使ってパクパク食べた。その姿を、目の前の三人が興味深げに見てくる。 「……?」  どうしたのかと思って見返すと、オトさんが心底驚いたようにもらした。 「すごいですねえ、そんな細い棒で、落とさず上手に食べられるなんて。まるで曲芸です」  アニさんもビックリした顔をしている。 「突き刺して食べるのだとばかり思ってましたが、きれいに挟んで持ちあげるなんて。僕には到底真似できませんよ」  感心した様子でうなずかれて、ちょっと恥ずかしくなった。 「これくらい、前の世界では普通でしたので」 「そうなんですか。そこまで上達するにはきっと厳しい訓練が必要だったでしょうに。食べ方にも高い技術を要求するとは、なんと礼儀正しい世界なんでしょう」 「いやまあ……。礼儀ではあるんでしょうけどね」  箸の持ち方でこんなに()められるとは。 「そう言えばハルキ様も、はしを使って優雅な手つきで食事をされていたな」  ジルクードさんが肉の塊を手でつかみ、ナイフで大雑把(おおざっぱ)に切り分ける。肉片に刃先をブスリと刺すと、そのまま持ちあげてかぶりついた。 「……」  何ともワイルドな食べ方だ。見ればアニさんとオトさんも同じように食べている。野菜は手づかみだ。  なるほど彼らにしてみれば、箸はそりゃあ優雅に見えるだろう。 「手が汚れなくて便利なんですけどね」  肉汁のついた手を舐める彼らに圧倒されて、僕は愛想笑いで肩をすくめた。  食べ方は前時代的だが、しかしここの料理はすこぶる美味しい。パンはフワフワでスープも濃厚。  デザートにフルーツタルトのような菓子も出てきて、最後にはお腹がいっぱいになって、僕は大いに満足したのだった。
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