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2 異世界へ転移する
***
ふわ、と浮遊したのはほんの一瞬。
重力が戻り、――落ちると同時に、僕は水中に投げ出された。
ばしゃああん、と大きな音が響いて身体が水に包まれる。
――溺れるっ……。
条件反射で、手足をバタバタさせた。必死にもがいて空気を探し、水が肺に入らないように息をとめて目を見ひらく。すると思いがけなく周囲は明るく、身を起こせばあっけなく水の外に出た。
「……え?」
水底に手が届く。手のひらに、タイルのようなつるつるした石が触れた。目を瞬かせてあたりを見渡すと、そこには青空が広がっていた。
僕は噴水の中にいた。トレビの泉のような、真ん中に大きな彫刻のある直径十メートルほどの大きな噴水だ。深さは七十センチほど。だから尻餅をついていても溺れる心配はなかった。
「……ここは」
どこ?
噴水の周囲には、花をつけた木や、美しい花壇がたくさんあった。石畳が敷かれた歩道や、ベンチもある。どこかの公園か庭園のような光景だ。
奥には立派な建物が見えた。ギリシャとかの暖かい国の、歴史的建造物といった感じの重厚な舘だ。けれど雰囲気が似ているというだけで、よく見ると細部は全く違っている。デザインの印象が僕の知っている世界のものと異なっていた。見れば噴水に刻まれた彫刻も不思議な形をしている。
何もかもがSF映画のセットのようだった。もしくは作りこまれたCGみたいな。
頭からしたたる雫をぬぐいつつ、ポカンとしながら首を巡らせると、ふと離れた場所にいる男と目があった。
「え」
ビックリして目を剥く。相手も呆気にとられた顔でこちらを凝視してきた。
お互い驚愕の表情で見つめあう。
男は全裸だった。
噴水のすみにある石にゆったりともたれて、まるで温泉にでもつかるかのように長い手足を伸ばしていた。
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