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「上着だけでいいから。見せてみろ」
「あ、はい」
それならばと、着ていた制服のジャケットを脱いで渡す。すると相手はジャケットをひっくり返して、裏地をジロジロと調べ始めた。横で少年らもそれを見守る。
「むぅ。これだ」
男がとある部分を注視する。
「ここに護符が縫いつけてある。見ろ、書かれている図柄も見覚えがあるぞ」
「おお、まさにこれは。ハルキ様の服についていたのと同じ護符です」
三人は洗濯タグを見ながら真剣に話しあった。
「神殿長様、この布地は、我々の技術では真似て作ることは不可能です。しかも、留め具に刻まれた紋章もハルキ様のものと一致します」
制服の生地は上等なウールで、ボタンには校章がデザインされていた。
「ではやはり」
三人が雁首揃えてこちらに振り返る。
「この者は、本物の降神様だ」
神殿長はあり得ないものを見る目で、僕を凝視した。そうしてこちらに視線をあわせながら隣の少年に命じる。
「オト、お前はすぐに城にいって、王とハルキ様にこのことを伝えよ。今すぐお越しいただくようにお願いするのだ」
「わかりました」
オトと呼ばれた背の低い少年は、返事をするとパッと身をひるがえし、庭を突っ切って駆けていった。犬のような身軽さだった。
「アニ、お前はこの者を見張っていろ。私は急いで着がえてくる」
「わかりました。あ、神殿長様、礼服は紺色のほうを使ってくださいね。洗濯しておいたので」
「わかった」
男は、アニと呼ばれた背の高い少年にスマホと濡れたジャケットを託すと、オト少年とは反対の方角、建物のほうへと走って行った。
残された僕は、アニという人に向かってきいた。
「僕の上着とスマホはどうなるんですか」
「ああ。これは多分、証拠品として扱われることになるかと」
「返してはもらえないんですか」
「ハルキ様のすまほと服も、神殿に納められていますからね」
「そうですか」
まあ、そのうち電源が切れて、使い物にならなくなるだろうからいいんだけど。この世界に電気や充電器が整備されているとは思えないし。
考えていると風がびゅうと吹いてきて、噴水の中に立つ僕の身体を冷やした。ブルリと震えれば、少年が少し同情めいた視線を向けてくる。
「寒いのならば、座って温まっていればいいですよ」
言われて、「え?」と下を見た。膝丈ぐらいの深さの噴水は今まで気づかなかったが温かかった。お風呂の温度ほどある。
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