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「ここは、温泉なんですか」
「そうですね。神聖な泉で、召喚場でもあります」
「……へえ」
僕は泉の中に腰をおろし、体育座りをした。さっき神殿長が全裸でくつろいでいたのも、ここが温泉だったからなのか。お湯は丁度よい温かさで気持ちがよかった。源泉成分は何なのだろう。
などと考えていたら神殿長が戻ってきた。今度はキチンとした服装をしている。
イケオジは濃紺のチェニックと同じ色のズボンを着て、足元には革サンダルを履いていた。服の首回りや袖には、金糸の刺繍が施されている。革ベルトにも精緻な模様が型押しされていた。そして両手に金のバングル。ふたりの少年と基本的には同じデザインだが高級感があった。
長い髪は後ろでひとつに括っている。髪の色は濃い灰色で、先端に銀のメッシュが入っていた。
そういえばとアニ少年を見てみれば、こちらは栗色の髪の先端に金色のメッシュが入っている。これはこの世界のおしゃれなのか、それとも元々こういう髪質なのか。
装いを改めた神殿長は、さっきと違い威厳があった。真っ直ぐで凜々しい眉に、澄んだ水色の瞳。若干無精ひげが生えているがそれもまたセクシーだ。鈍色のひげは頬全体をうっすらおおっていた。
外国人って、日本人より体毛の濃い人が多いな。なんでだろ。不思議に思いつつしげしげと眺めていたら、男はちょっと居心地悪そうな表情になった。
「もうちょっとそこで待ちなさい。しばらくしたら城の者がやってくる。落ちてきた場所で、そのままの状態でいたほうが事実が伝わりやすいだろうからな」
「わかりました」
僕は桃谷先輩に会えるかもしれない嬉しさでドキドキしてきた。
先輩に会うのは一年ぶりだ。僕が日本から追いかけてきたことを喜んでくれるだろうか。
きっとビックリするだろうな。自分の後輩まで転移成功するなんて、考えてもいないだろう。想像するとふふっと笑えてきた。
この世界で、ふたりで異世界からの召喚者として、歓迎されて楽しく暮らせたらいいなぁ、などと考える。神殿長の話しぶりからして先輩はどうやら降神様として大切にされているようだし、だったらその横でお付きの仕事なんかもらえたら最高だ。
前世での不幸な生活を忘れて、新たな人生をここでやり直したい。美味しいものを食べて温泉につかって、たまにここの人たちの役に立って。でもって先輩とのラブロマンスなど展開できたらもう、言うことなしだ。
うっとりと妄想に浸っていたら、庭のすみが騒がしくなった。十数人の人間がザワザワと話をしながらこちらにやってくる。その先頭に皆を先導するオト少年がいた。どうやら城の人たちがやってきたようだ。
僕は緊張に身を固くした。
「王様とハルキ様が揃っておこしです」
こちらに駆けてきたオト少年が神殿長に告げる。
「む。そうか」
男が王様のもとに向かい、両手を腹にあてて頭をさげた。歓迎の挨拶らしい。それを泉の中から体育座りで眺める。
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