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4 いきなり詐欺疑惑
「お待ちください、陛下」
そこに凜とした男らしい声が響く。
「その者はたしかに、降神様でございます」
王様を押しとどめたのは神殿長だ。彼が声を張りあげると、僕に剣を向ける騎士以外の人間が皆、彼を振り返った。
「何?」
王様が神殿長に厳しい目を向ける。神殿長は重々しい口調で続けた。
「その者は、降神様である証拠に、すまほを持っていました」
「すまほを?」
驚く王様に、僕が持ってきたスマホを差し出す。王様は長方形の機械を受け取ると、慣れた手つきで電源を押した。
しかしスマホは起動しなかった。
「光らぬではないか」
電源を何度押しても反応しない。
王様はスマホを神殿長に戻した。
「おかしいですね、先ほどはちゃんと光ったのに」
神殿長が首をひねる。僕は彼に声をかけた。
「あの、見せてください」
スマホを受け取って操作する。けれどウンともスンともいわない。
「どうしちゃったのかな」
「もしかして、『じゅうでんぎれ』というやつではないのか」
神殿長の言葉に、僕は首を振った。
「いいえ。そんなことないと思います。……だとしたら、濡れたせいかな」
僕のスマホは防水仕様じゃない。
「濡れると壊れるのか?」
「ええ、まあ」
「なんと脆い」
神殿長が残念そうに眉をさげた。
「光らぬのでは、すまほと証明されない」
王様が偉そうに言う。
「しかし、先ほどは本当に光っていたのです。神官達も見ています」
神殿長がふたりの少年を示すと、彼らはウンウンとうなずいた。
「彼が着ている服も、ハルキ様のときと同じです。護符もついていました」
「では、この者は、いったいどうやってここにきたのだ? 城へ報告にきた神官の話では、勝手に落ちてきたというではないか。そんなことがあり得るのか?」
王様の疑問に、神殿長も困り顔になる。
「どうやってここにきたのかは、全くわかりません」
「召喚の儀を行うこともなく、降神がくるなど聞いたこともない」
「たしかに」
僕は雲行きが怪しくなるのを感じた。周囲にはまだ鋭く尖った剣がある。
「ならば不審者であることには変わりない。捕らえて牢に入れよ。召喚師に面会させて詳細を調べさせる」
王様が命令を下すと、兵士のひとりが僕の髪の毛をつかんで地面に押し倒した。
「ひやっ」
あごが土にぶつかり、剣がクロスして首の上に差しこまれる。シャキンと鋼のこすれる音とともに、刃が首筋にきた。ちょっとでも動けば皮膚が切れてしまう位置だ。
「…………ひぃっ」
僕は蒼白になって息を呑んだ。
「お待ちください、陛下」
それを押しとどめたのは神殿長だった。
「もしこの者が本物の降神様で、何か理由があってここにきたのだとすると、この待遇はこの国にとって良いこととは思えません。大きな祟りの生じる恐れがあります」
「むぅ」
王様が唸り声をあげる。僕は目だけ動かして皆を見あげた。
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