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 思わず彼の腕を掴んだ。振り向いた彼の驚いた顔。  しまったっっ  知らんぷり、すればよかった…っっ  でももう遅い。 「…オ…オレの…」 「え?」  彼は驚いた顔のまま左のポケットに手を入れた。 「あ」  左のポケットから出てきた彼の手に、全く同じ青いキャップのリップクリーム。 「なんだ、おんなじの使ってたのか。気ぃ合うな。つかごめんな」    彼がにかっと笑ってキャップを閉めて、オレの手にリップクリームをのせてくれた。  あったかい大きな手。 「う、ううん…っ。たったったまたま…っ」  あ、やばっ「ううん」でやめとけばよか…っ 「ふーん?」  わわっっ  手、握られたっっ 「前は確か、全体的に白いやつ使ってたよな? リップクリーム」 「え、え、あ、う…ん」  なんでそんなこと覚えてんの 「その時は普通に出して使ってたよな。だから覚えてんだけど。でも俺、お前がこれ使ってんの、見たことねぇんだよなぁ」  どくん、と胸が跳ねた。 「た、たまたま…じゃない…?」 「たまたま? それも? ふーん…」  ちらっとオレを見た彼の目が、なんか今までと違う。  ドキドキ ドキドキ ドキドキ 「!」  リップクリームごと、ぎゅっと手を握られた。  おっきい手。骨っぽくて格好いい。 「お前、今日放課後なんか用事ある?」  オレの手を握ったまま彼が訊く。じっと見つめてくる強い瞳。 「…な…い…けど…」    やばい 手、熱い あつい…っ 「じゃ、一緒に帰ろ。な?」  にっ、と笑いかけてくる顔、めちゃくちゃ格好いい。 「う…ん…っ」  てゆっか、いっつも一緒に帰ってんじゃんっっ  キーンコーンってチャイムが鳴る。彼の手が、ゆっくり離れていく。  手のひらの上の青いキャップのリップクリーム。  それをぎゅっと握ったまま、右のポケットに手を入れて自分の席に戻った。  彼の唇が触れたリップクリーム  このまま保存か、それとも…  彼の後ろ姿を見つめながら、ポケットの中でぎゅうっとリップクリームを握りしめる。  心臓は、とくとく、とくとくと早鐘を打ち続けていた。  了  
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