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 守ってやってる、とか、偉そうに言うつもりはない。知ってたのに放置して、自分の周りで胸くそ悪い事件が起きるのが嫌なだけだ。  そう、思ってた。  ほんとに最初はそう思ってたんだけど。  肩を抱いて、間近で見る顔が綺麗で可愛くて。  ちょっとびくついてたのが段々慣れてきて笑ったりするようになって。  時々、肩を抱いてる俺の腰に腕を回してくるようになって。  その全部にドキドキするようになって。  やばい、やばい、俺やばい、って思って。  思って思って一周回った。  あの時あのポスター見ててよかったなぁ。描いてあったイラストの犬の顔が、国語の教師にすっげえ似てんなぁ、とか思って見てただけだけど。  その国語教師は今、黒板の前で教科書を開いている。  見てなかったら、どうなってたんだろう。  少なくとも今ほどはあいつと親しくはなってなかったと思う。  あいつがあの男たちの被害に遭ってたらと思うとゾッとする。  まあでも…、俺も今はあの男と同じようなこと、考えてんだけど。  もちろん無理強いするつもりはない。  触れたいけど、まずは心が欲しい。  どうしたもんかなぁ  昔々の武将の栄枯盛衰の話はいいから恋愛について教えてくれよ。多かったんだろ? 武士の同性愛。  友達としては好かれてる方、なんじゃないかと思ってる。  肩を抱いても嫌がらないし、「サッカーはやんないよ」って言いながら見には来る。  靴箱でブレザー引っ張られたの、可愛かったなぁ。  授業中は、俺の方が席が前だからあいつが見えない。  でも見えなくてよかったかも。俺、絶対ずーっと見ちまう。  見えてなくても授業頭に入ってねぇのに。  やっべぇなって思ってたらチャイムが鳴った。  マジやべぇ。次のテスト赤点かも。  はぁーってため息をつきながら、スマホでも見ようと思って右のポケットに手を突っ込んだ。  ん?  俺、こっちにリップ入れたっけ? いっつも左に入れてっけど。  まあいいや。唇も心とおんなじカッサカサだ。    唇の方はリップクリーム塗っときゃいいけど、心はどうすりゃいいんだよ。  青いキャップをスポッと抜いて、唇にスッと滑らせた時、 「あのっそれ…っ」  右腕をぐいっと掴まれた。
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