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みぎ 5
最初、彼に肩を組まれた時はびっくりした。重たい腕が肩にどんって乗っかってくる感じ。びっくりはしたけど不快感はなかった。
廊下を歩いている時、彼はよくオレと肩を組むようになった。
それが、段々柔らかい感じになっていって、腕が乗ってくるんじゃなくて抱き寄せられるみたいになって、そのうち廊下だけじゃなくて教室でもあいつはオレの肩に腕を回すようになった。
そしてすごく優しく笑いかけてくれるから、なんか大事にされてるみたいな気持ちになって、嬉しいとか思ってしまった。
入学してから2回、席替えがあった。
2回とも彼とは席が近かった。そして2回ともオレの方が彼より後ろの席になった。
ちゃんと授業を受けている顔をして、彼の後ろ姿を見てる。
広い背中、がっしりした肩。身長の割に座高は低い。
キレイに刈った襟足。髪はほんの少しクセがある。
授業中は基本的に、彼が急に振り返ったりはしないから安心して見ていられる。
こうやって見てるだけなら大丈夫。心音は、外までは聞こえやしないし。
でもほんと、どうしようこれから。
あの長い腕で肩を抱かれたら、胸がぎゅうっとなって顔が熱くなる。
彼にバレたくないけど嫌がってるとは思われたくない。
だって…全然嫌じゃない…し…
彼の腕の中は暖かくて心地いい。
耳元で聞こえる声も、体温も、全部手放したくない。
向けられる笑顔を自分だけのものにしたい。
あの広い胸に抱きついてみたい。
やば…オレ
こんなこと考えてるって彼にバレたら一緒になんていられなくなる。
だからどうしても隠しておかなくちゃ…。
あ、そうだ。今のうちにリップ塗っとこ。さっき半端だったし…って、
あれ?
リップクリーム、入ってない。右のポケット。
さっき落とした? 慌ててたし。
…いや、入れた。入れたのは覚えて…
あ!!
キーンコーンと授業終了のチャイムが鳴った。
やばい! やばい! オレ…っ
あいつのブレザーのポケットに…っ
左斜め前の席、彼の後ろ姿。大きな彼の手がブレザーの右ポケットに入ってる。
やばい! やばい! やばい…っっ!
握った形でポケットから出てきた彼の手の中に、青い色が見えた。
あ あ…っ それ…っっ
そしてスッとキャップを外して唇に…
「あのっそれ…っっ」
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