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翌朝は良く晴れていた。たつ子が雑煮を出してくれた。
「おばあちゃん。お餅がすごくおいしい!ここで採った餅米だね!」
「うんだぁ。こんびにのきりもちじゃ」
「・・・」
「さとし、しごとはなんでぇ」
「ああ、IT会社に勤めてる。技術者だよ。給料はいいけど...忙しすぎてね...」
聡は少し俯いた。
「あいてぇかいしゃ...ぎじつしゃ。さとしはあたまさええからな。おらはじいさんにあいてぇな。ふひゃひゃひゃ」
二人が雑煮を食べ終わるとたつ子が仏壇に手を合わせに行った。仏壇の中に手を伸ばしてガサゴソしながら何だか小声でぶつぶつ呟いている。言葉がはっきりせず良く聞こえない。
「じ・さん・・しに・・てぇ・・」
戻って来たたつ子が聡をじっと見つめた。聡が思わず無言でうつむくと、たつ子の手には茶封筒があった。
「ほれ。じいさんからじゃ。けえってからあけろ」
封筒の表には鉛筆の太い字で“おとしだま”と書かれていた。
それから2日間、聡はたつ子の昔話をさんざん聞かされた。実態はほとんどが寅二との思い出だった。たつ子は同じ話を何度か繰り返す。聡はすっかり忘れていた寅二との思い出が鮮やかによみがえる。コロナ禍以降、聡が久しく感じえなかった穏やかで心地良い刻の流れだった。聡が帰るまでに炬燵で食べたミカンの数は、彼が普段一冬で食べる数をゆうに越していた。
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