五十嵐の純情

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

五十嵐の純情

  僕のじいちゃんは、青春を楽しめと言った。だから憧れのサッカー部で練習に打ち込んだし、たくさん友達と遊んだ。体育祭は体のデカさを活かしてバスケにバレーと大活躍、文化祭は力自慢を活かして大道具係として頼りにされた。まさに順風満帆な高校生活だろう。高2の夏を迎えても、それは変わらない、変わらないのだけど……。   「はぁーーー」    ゴンッと音を立てて机におでこをぶつける。昼休みで他の生徒も友人たちと会話を楽しんでいるため、僕の衝撃音を捉えた人はいない。   「どしたリョウ」 「どうしたもこうしたもないよ、ヨリちゃん」    先月誕生日を迎え、17歳になった僕、五十嵐 亮太郎(いがらし りょうたろう)は、目の前でクリームパンを貪る幼なじみの佐都間頼人(さつまよりと)を見上げた。   「まさかお前……」 「そのまさかだよ」    ズボンの右ポケットでカサリと音を立てたのは、白い封筒。いわゆるラブレター。もらったわけじゃない、僕がこれを渡せずにいるだけだ。    阿見晴(あみはる)さん。1年も奇跡の同クラスだった2年も出席番号は1番と2番。初めて僕を見た時、体の大きさにびっくりしていたのを覚えている。僕と阿見さんは、並べばかなりの凸凹具合。40cmは差があると思う。ヨリちゃんが隣ならちょうどいいんだろうな。  高1の文化祭、全ての片付けが終わった時、トコトコと僕のそばまでやってきた彼女。阿見さんは、小さな体で僕の隣にやって来て、お疲れ様と薄ピンクの袋に入れられたお菓子をくれた。市販のキャンディとクッキー。他にも渡している人がいるんだろうけど、彼女は僕にそれをくれた。「お疲れ様です、力持ち!」、そう書かれたミニレター。思わず匂いを嗅いでしまった。こころなしかほんのりピーチの香りがした。おそらくキャンディの匂いが移っただけだけど。  思えば、彼女と席が前後になった時から、僕は彼女に惹かれていたんだと思う。僕とは正反対の雰囲気、いつも笑顔で誰にでも優しい。好きにならないわけがない。  そんな彼女に想いを伝えようと決心したのは、2年に上がっても同じクラスだった瞬間だ。 「おはよう! また同じクラスだね、よろしく」  そう言って笑った阿見さんを何度だって思い出せる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!