1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
五十嵐の純情
僕のじいちゃんは、青春を楽しめと言った。だから憧れのサッカー部で練習に打ち込んだし、たくさん友達と遊んだ。体育祭は体のデカさを活かしてバスケにバレーと大活躍、文化祭は力自慢を活かして大道具係として頼りにされた。まさに順風満帆な高校生活だろう。高2の夏を迎えても、それは変わらない、変わらないのだけど……。
「はぁーーー」
ゴンッと音を立てて机におでこをぶつける。昼休みで他の生徒も友人たちと会話を楽しんでいるため、僕の衝撃音を捉えた人はいない。
「どしたリョウ」
「どうしたもこうしたもないよ、ヨリちゃん」
先月誕生日を迎え、17歳になった僕、五十嵐 亮太郎は、目の前でクリームパンを貪る幼なじみの佐都間頼人を見上げた。
「まさかお前……」
「そのまさかだよ」
ズボンの右ポケットでカサリと音を立てたのは、白い封筒。いわゆるラブレター。もらったわけじゃない、僕がこれを渡せずにいるだけだ。
阿見晴さん。1年も奇跡の同クラスだった2年も出席番号は1番と2番。初めて僕を見た時、体の大きさにびっくりしていたのを覚えている。僕と阿見さんは、並べばかなりの凸凹具合。40cmは差があると思う。ヨリちゃんが隣ならちょうどいいんだろうな。
高1の文化祭、全ての片付けが終わった時、トコトコと僕のそばまでやってきた彼女。阿見さんは、小さな体で僕の隣にやって来て、お疲れ様と薄ピンクの袋に入れられたお菓子をくれた。市販のキャンディとクッキー。他にも渡している人がいるんだろうけど、彼女は僕にそれをくれた。「お疲れ様です、力持ち!」、そう書かれたミニレター。思わず匂いを嗅いでしまった。こころなしかほんのりピーチの香りがした。おそらくキャンディの匂いが移っただけだけど。
思えば、彼女と席が前後になった時から、僕は彼女に惹かれていたんだと思う。僕とは正反対の雰囲気、いつも笑顔で誰にでも優しい。好きにならないわけがない。
そんな彼女に想いを伝えようと決心したのは、2年に上がっても同じクラスだった瞬間だ。
「おはよう! また同じクラスだね、よろしく」
そう言って笑った阿見さんを何度だって思い出せる。
最初のコメントを投稿しよう!