別れの時1

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しばらくして、地下の階段を降りる。 明かりも殆どなく、どちらかと言えば、怖い。 「暗いから、足元に気をつけて。」そう言われ、ゆっくりと降りて行く。 また、鉄の扉に阻まれ、ヨシタカさんが、黒いカードを通した。 ゆっくりと、扉が開かれた。 すぐ、左に、受付があった。 真正面は、横に広かったが、やっぱり、頑丈な鉄の壁があった。 いったい、どれ程、厳重なのだろう。 何があるのか、私には、検討もつかない。 ヨシタカさんは、左の受付に行き、黒のカードを渡す。 そこでも、知り合いがいたのか、 「お久しぶりです。ヨシタカさま。」と、 受付の奥からも、数人出て来て、挨拶をされていた。 「ここは、父親の持ち物なんだ。」そう、ヨシタカさんに言われ、 ようやく少し理解出来た。 ヨシタカさんと、受付は、何やら話していたが、小声で、聞き取りにくく、 意味が分からない事が多かったため、聞き流していた。 でも、「手錠使われますか?」と、受付から言われ、 「1mを。」と、ヨシタカさんが、答えた時は、まさか・・・と思い、 怖くなった。 「ナオさん、今から、俺とはぐれないように、手錠かけるから、 そうしないと、危ないから。」そうヨシタカさんは、言って来る。 危ないのは、ヨシタカさんの方だよ。 手錠をかけるという行為が、非常識だと思う。 そんな思いとは、関係なく、ヨシタカさんは、私の左手首を持ち上げ、 手錠をかけた。 ヨシタカさんの右手にも、自分で手錠をかけた。 1mというのは、手錠と手錠の間の長さだと、この時、分かった。 「ナオさん、利き手が右だから、左にかけて置くから。」 と、ヨシタカさんは、配慮したように言うが、 そういう問題では、ないと思う。 ヨシタカさんは、手錠がかかっている手で、 背中側から、私の反対側の腰に手を回した。 こういう意味での1mなのかもしれない。 腰を掴んだ手で、私の身体を引き寄せる。 檻のようなエレベータで、上の階に上がる。
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