別れの時1

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上の階の扉が開き、数歩前に行った時、 とんでもない景色を目の当たりにした。 左右それぞれに、密閉されたアクリルケースの空間に、 全裸で立ったまま両手両足が縛られていた。 左が男性、右が女性。 何か所か穴が空いており、手が入れられるようになっている。 実際、何人か、面白そうに、手を入れて、嫌がる姿を楽しんでいる。 四肢を拘束されている人間は、うめき声をあげ、苦しそうに見えた。 「行こう。」と、ヨシタカさんは、立ち止まって動けない私の背中を押した。 私は、少しずつ歩き始める。 歩きながら、見たくない物や声をたくさん聞いた。 ペットのように扱う人間と、扱われる人間。 いろんな形で、拘束されていて、いろんな道具を使って楽しんでいる。 見ないように、聞こえないようにしようとしたが、 視界や声は聞こえて来る。 私は、扱われる人間の方に、どうしても共感してしまう。 それが、気持ち悪く、気味が悪く、 よろけそうになり、うめき声が出そうになる。 私は、声が出そうになるのを抑えるため、 ずっと、右手で口を抑え続けた。 それが、分かっているのか、 ヨシタカさんは、ずっと後ろから私の身体を支えていた。 腰に手を回したのは、これが理由なのかもしれないとも思う。 「どうして、こんな事をするの?」私は、途中で立ち止まり、 目に涙を貯めながら、ヨシタカさんに聞いた。 あまりにも、苦しすぎる。 ヨシタカさんは、少し考え、 「ここには、一獲千金を狙っている人もいるんだ。 1日耐えるだけで、大金が貰える。 借金で、どうしようも無くなったり、 生活が苦しい人が、覚悟を持って、ここに来る。 そんな場所でもあるんだ。」と、私に言って来た。 本当なのだろうか。 意味は、分かるが、それは、ごく少数ではないのか。 と、疑問を持ち始める。 どうして、こんな所に、私を連れて来たのだろう。 刺激が強すぎて、なかなか考えられなかったが、 「着いたぞ。」と言われ、その人を見た。 行方不明になっていると言われている、 ウエノショウコだった。
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