ゴローの正体

1/1
前へ
/10ページ
次へ

ゴローの正体

「ところで、なんでゴローさんはマジックアイテムなんて作れたの? 天使の社会だと、工房で職人が作るものなんだけれど…」 ラーファエルが、ジョッキを片手に疑問をこぼした。 わたしも、それは不思議に思っていたところだ。 「妖精界でも、ものづくりの妖精が生産を牛耳ってるから、作り方も公開されてないよ。」 そもそも、このゴローという名の店主は、何者なのだろうか。 サイズ的に、私たち妖精?とは違うし。 天使のラーファエルのように、白い羽根や光輪もない。 2m近くの大男。 太い屈強な腕に、焦げ茶色の長い髪。 人間のような風貌をしているが、魔力量は、上級天使のラーファエルや、有名家門で魔法を得意としている、妖精の私と同格だ。 そもそも、天界と妖精界の間に、人間がいるはずもないし…。 「そりゃ、俺はここでカミさんと食堂やってんだから、作れるだろうよ。」 思わず、私とラーファエルは声を合わせて、 「え?どういうこと?」 と、聞き返した。 「どういうことも何も、俺もそこのラーファエルと同じ、天使の1人ってことだ。 天使と言うより、神使かな。狛犬(こまいぬ)だからな! 俺はこれでも、カミさんの道標(みちしるべ)なんだぜ?ハッハッハ!」 豪快に笑う店主の勢いに、私は飛ばされそうになったが、さっとラーファエルが支えてくれたので助かった。 「道標ってなに?」 私はラーファエルに尋ねる。 「ある神様に使える、首位の天使のこと。」 「家主と執事長みたいな?」 「そん感じ。」 ラーファエルはやんわりと頷いた。 「でもゴローさんは、いったい神様のどなたに使えてるの? 道標ともなれば、ずっとお側につかえているものかと思ってたけど…」 ラーファエルはゴローの方を見て、尋ねた。 「ラーファエルの認識は正しいぞ!まあ、俺のカミさんは今日も厨房でおたくらの料理作ってるからよ。一緒にいると言えばいるな!」 「え!? カミさんって、もしかして神様のこと!? てっきり奥さんかとおもってた。 というか、この料理神様が作ってたの!?」 私はびっくりして、料理をもう一度、まじまじと見直した。 「どうりで神聖さを感じるわけだ。」 ラーファエルは頷いていた。 というより、さっきすごく大事なことを聞き逃さなかったか? この大男、ゴローは狛犬!? 耳もしっぽもないのに!? 私はまだ信じられない。 「大将、狛犬なのに耳もしっぽもないの?」 「おお?モフモフしたいか?」 ニヤッと笑う店主は、ヤクザには見えても、とても癒し系のわんちゃんには見えない。 「幼いころは人型になっても耳やしっぽは残っていたが、こんだけ大きくなると、しっかり変身できるようになるさ。 まあ、今日は嬢ちゃんのお祝いの日だし、出血大サービスだ!」 ぽふっ! 紫色の、妖術の煙が霧散すると、なんとゴローの頭から、白くて長い毛におおわれた耳が、背中にら赤毛が混じる妖艶なモフモフのしっぽが生えていた!! 「寝る時なんかは、この姿なんだけどよ。なんか、照れるな。」 ゆらゆら揺れる毛は、まさしく癒しだった。私は思わず、飛び上がり店主のしっぽに突進した。 ラーファエルも店主のしっぽに夢中なご様子。 大きなモフモフに囲まれて、今日までの疲れが一気に吹っ飛ぶ、そんなひとときであった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加