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恋は土曜日8時から
「ねえ、妖精さん、早く私を変身させてよ!」
気がつけば、ティアラは、私を覗き込んでいた。
「変身するって、何に?」
「もちろん、魔法少女よ!正義の魔法で可愛く悪の敵をやっつけちゃう、ピュアキュアにしてくれるんでしょ!?」
「魔法って、君はどこまで使えるの?属性は?中級あたり?」
「いや、今は何にもだけど…。
ピュアキュアになったら使えるようになるんだもん!!」
涙目で訴えかけてくるティアラを見て、そもそも魔力が一ミリも感じられないことに気がついた。
そうだった。
ここ地球には、魔力自体が存在しないから、魔法なんて使えるはずないんだ…。ティアラも、私も。
「魔法使うんだもん…!」
そう言って泣き始めたティアラを、うまく宥めることができず、オロオロとあわてふためいてしまった。
初の担当をギャン泣きさせたなんて、おばあ様に知られたらまずい。非常にまずいぞ…。
「そうか、そうか、なれるといいなあー。で、なんでなりたいの?」
無理やり、話を逸らしてティアラを宥める。
「えっとねー、それは、この人に会いたくて!!」
ティアラは、カバンの中から、あるチラシを取り出した。
「仮面戦隊、ライダーマン?」
「そう!この、赤色のリーダー、賢人様に会いたくて!賢人様はね、すっごくかっこいいの!…」
「そうか、そうかー。」
それと、ピュアキュアになることがどうつながるんだよ!?という心の声を押し殺して、私はただ、ティアラの話に耳を傾けた。
「あのね、それでね、テレビでは土曜日の8時から、ピュアキュアでね、その後の9時からが仮面戦隊ライダーマンなの!!だから、ピュアキュアになったら、賢人様に会えると思ったの!」
「おーー、そうかそうか。」
(会えるわけないだろ!テレビの中の話かよ!というか、ピュアキュアじゃなくて仮面戦隊に入ればいいじゃん!!)
しかし、ひと通り話を聞いてあげると、ティアラはようやく落ち着いたようだ。涙で濡れた顔を、ピンク色のタオルでゴシゴシ拭いて、ライダーマンのチラシを丁寧に折ってカバンに入れている。
さて、どうしたものか…。
私の任務は、シンデレラの恋を手助けすること。
だけど、空想の相手に会わせるなんて不可能だ。
役者に会わせる…っていうのも違うか。
ティアラには、子供ながらも、私たち妖精に届くほどの思いがあるのだ。
特に、初めての担当の願いはなんとしてでも叶えたい!
よし!
決意の固まった私は、ティアラの顔の周りを飛び回った。
「妖精さん、なに?」
「ティアラに、とっておきの作戦を考えてきてあげるよ。」
そう言って、ティアラの手のひらの上に飛び乗った。
「ほんとう?」
ティアラは目を輝かせている。
「だって私は、フェアリーゴッドマザーなんだから!」
私は、虹色の四枚の羽を開いて、神々しくしてみせた。
しかし、ティアラは首を傾げていた。
「よくわかんないけど、妖精さん、ありがとう!」
そしてティアラは、にっと笑う。
「明日の同じ時間、ここに集合ね。」
私は、羽をはばたかせながら伝えた。
「分かった!待ってるね!」
そして、私はひとまず妖精界に帰るために、空に向かって飛びたった。
そんな私が見えなくなるまで、ティアラはずっと手を振っていたのだった。
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