何度でも詩人を撃つがいい

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何度でも詩人を撃つがいい

★ 撃つならば あいつを撃て! あそこの詩人を撃っちまえ 無産の輩を撲滅せよ 詩人など、この世界に 何ひとつ、利益をもたらさぬ やるならば屑を消せ あの吟遊の徒、詩人とやらを 容赦しないで撃つがよい ★★☆ 遠くから「撃て!」という 怒声が聞こえ 僕はただ本能で 逃げ出しはじめる ライフルとかバズーカを抱えた市民や スリングショットを構えた老人や ロケット砲なんかを持った権力者が 僕を追いかけてくる その人たちは叫ぶ 撃つなら、詩人を狙え! この世界にとって何ひとつ役立たぬ屑を 即刻消しちまえ、と 僕は恐怖にかられ ただひたすら 逃げ回りながら 声の限りに詩っていた 撃たないで 隣の人を乱射しないで 間違って撃つのはいけない それだけは許されないから 隣を走る子供に当たるぐらいならば 僕が両手を広げて ここに立ちはだかるから もっと、しっかり狙いなさい 役に立たないと思う詩人を 君たちの世界から消せばいい 何の役にも立たないと思う、この叫びを 君たちの歴史から抹消すればいいじゃないか でも、撃つんじゃない 隣を走る子は撃つな ただ憧れだけで、屑の隣を走る幼児を 傷つけてはならない 僕の隣を走る無邪気な存在を 生まれたばかりの詩人の卵を撃つな それだけは許せない 君たちの横暴に従って、ちゃんと狙え ★★☆★☆ 詩人に照準を合わせ あいつの頭を吹き飛ばせ 詩人など、子供たちを堕落させるだけで この世界に何の進化ももたらさないのだから 有害な言葉しか生み出さぬ あいつの頭を吹き飛ばせ 撃つならば容赦なく 無意味の上で踊る詩人の頭を狙え 何度でも詩人を撃て 再び立ち上がらぬように 詩人は何度でも撃て 子供たちがつられて走り出さぬように ★★☆★☆★★☆ その怒号は呪詛なのか、政令なのか…… 僕は涙を振りちぎる 併走する子供たちもオトナを振りちぎる でも、ついて来ては、いけないのだよ 何度でも撃てばいいさ 僕の頭を 隣の子に当たらないのならば いつでも僕を粉々にするがいい 粉々になった僕の魂は 七色の鱗粉となって 走る子供たちに降りかかる それは言葉の魔術を呼び起こすだろう そして詩人の卵たちが 疾走する子供たちが また何度でも この世界を塗り替えるだろう 無力の卵から詩人が孵化し 子供たちが哭きながら 飽きもせずに この世界を壊しては創り直すだろう 七色ではなくとも 無垢の雛が詩う世界は 少なくとも醜くはない 描き直すこともできる ★★☆★☆★★☆★★ 詩人は何度でも撃て 二度と立ち上がらぬように 詩人は徹底的に撃て 演算しつくされた未来を混濁させぬために ★★☆★☆★★☆★★☆ 何度でも詩人を撃てばいい それでも粉々になった魂は降り注ぐ 何度でも詩人を撃てばいい それでも子供たちの言葉は生まれ継ぐ 僕の詩は、僕の涙 何度でも子供たちの心を洗いすすぐ 何度でも詩人を撃つがいい 永遠と同じ詩、涙の雫は死なないから
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