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「ああ、どこにいるの、私の運命の人っ」
放課後のカラオケで、私はマイク片手に叫んでいた。
週一でアイ、ミク、サチ、ユウコと通っていたのに、今は一人。
四人とは中学からの親友で、大人になっても、その関係はずっと続くものだと思っていた。
高校生になってミクに彼氏ができると、アイが先輩に告白してオッケーで、ユウコは、ラブレターをくれた相手と付き合った。ずっと一人でいようって約束したサチも、夏休み明けには違う高校の人と付き合ったっけ。
みんな彼氏を優先するようになって、自然と集まりは無くなった。
私は、運命の相手が告白してくれると待ち続けて、半年。
彼氏との関係が続いている四人に対して、私は一人。
取り残された現実に焦り、男子を食い入るように見つめている自分に気付き顔を赤らめ、彼氏のいない悔しさと絶望感。
色々な感情が入り混じった私は、ひねくれていった。
私がいる時、四人は彼氏の話をしなかった。気を遣ってくれることに息苦しくなった私は、グループ会話中の送信までも減らしていった。
今日は、そんな言い訳がましい自分の殻をぶち破ろうと、一人カラオケに挑んでいる。一人カラオケは初めてで、受付の時はすっごく緊張したけれど、その先は個室で気が楽だ。
自分の歌声を自分で聞くのって、抵抗がある。
そこで私は、アイドルになりきることにした。
「い、いえい。みんな、元気かなっ。ええっと、今日はメンバーを紹介しちゃうぞっ」
アイドルになったところで話題はないから、結局、親友のことを語る。
「まずはっ、ミクっ。『ザ・女の子』って感じの可愛い子だよっ。モテるけれど一途。ずっと片思いしていた幼馴染が告白してくれて、両想いになったの」
一人で拍手。
「アイは努力家で家庭的ですっ。その上、優しいの。いいなあ、先輩。私が男だったら結婚したいですっ」
マイクを外側に向けて、ファンの声援を聞いている真似。
「ユウコは爽やかでスポーツ万能っ。気が強くて、女子のファンクラブもあるぐらい。実は、押しに弱いの。ラブレターを靴箱に入れた男子、ユウコに気付いてくれて、ありがとうっ」
ここでアイドルポーズを決めてみたり。
「サチは、メンバーの中で一番頭がよくて、頼れるしっかり者なんだっ。ずと独り身がいいって言ってたけれど、お兄さんの友達の弟が支えてくれるって。よかったあ。あれっ」
私は自分の顔に触れて、顔が濡れていることに気付く。
泣いている。
私、彼氏が欲しいわけじゃなくて、四人が離れていったことが寂しかったんだ。
「みんな、幸せになれよっ」
「なにが『幸せになれよ』だよ」
「へっ」
突然マイクを奪われ、私は、後ろを振り返った。
「ユウコ」
「そうですが」
「えっ、アイ、ミク、サチも」
そこには、呆れたような怒ったような、複雑な顔をした四人がいた。
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