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HIBIKI
涙には二種類ある。人のために流す涙と、自分のために流す涙だ。
この涙はどちらだろう。
嬉しいのか悲しいのか、きっと両方だ。
この感覚を知っている。
息が止まるような高揚感。足が地につかないような痺れ。
何もかもをしっかりこの目で見ていたい。
そんな思いで見開いた目から液体が流れているのを感じる。
小さなスマートフォンに浮かび上がっている画像は荒く、音も酷い。それでもわかる。会場を包んでいる空気と熱気。
成功だ。良かった。
ほっと息をつく。
また一筋、涙が頬を伝っていくのを感じた。
この涙はどちらの涙だ。たぶん両方だ。
「みなさんのおかげで今日まで歌ってくることができました。僕の始まりの曲、デビュー曲を歌わせて下さい」
殊勝なことを言って更に俺を泣かす気か。
でも、悪い気はしない。
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