1.楽器の主張

9/16

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「したさ。必死でお前の発言を(ふく)らませたよ。だけど限度(げんど)ってものがあるからな」  眉をしかめてわざとらしくため息を()らして見せる姿に舌打(したう)ちしたくなった。 「あまりにも(しゃべ)らないから、声を出し()しみしてるんじゃないかという(うわさ)が出ているぞ」 「喋ろうと思うような質問を誰もしないからだ」  何様(なにさま)だよ。  響と関わった人がみな(いだ)いたであろう感情、成瀬も抱いた。  広いようで(せま)いこの世界、悪い評判ほど早く広まる。  才能だけで渡っていけるほど世の中は甘くない。  いい加減(かげん)、気付けよ。  二十九歳はもう子供じゃない。もう少し世の中ってものをわかってもいい年齢だ。 「歌うだけで報酬(ほうしゅう)がもらえるなんて、素敵(すてき)な商売だな」  わざと皮肉(ひにく)を言ったが表情一つ変えない。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加