1.楽器の主張

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「何年のつきあいになると思っている。もうすぐ五年だぞ」 「なのに、成瀬さんは僕のことを全然理解していないんだな」 「どう言う意味だ?」 「別に」 「もう少し……」  言いかけて成瀬は口をつぐんだ。  何を言っても無駄だ。  少なくとも、今の響には。  歌うこと以外はどうでもいい。  本気でそう思っている。  こいつは馬鹿(ばか)だ。  だが、歌うこと以外何もできないことも才能だ。  この五年、この態度でもなんとかやってこれた。それはまだ無名(むめい)に近いからだ。  表に出ればいろいろなことを要求される。  歌うこと以外何もできない、それではタレント失格だ。  もちろん本人は言うだろう。 「僕はタレントではなくて歌手だ。ミュージシャンに歌以外のものを求めるなんてナンセンス!」  純粋(じゅんすい)バカにもほどがある。  頭の中お花畑、というのはこのことか。
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