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おそらく響の頭の中には、真っ青な空が気持ちよく広がっているのだろう。
そよぐ風、足元に広がるのは鮮やかな色をした花か、青々とした草か。
その中で胸張って高らかに彼は歌う。
その歌声は、高く低く細く強く広がっていく。
どこまでも。
そんな世界は現実にはない。
汚い世界だ。
金になりそうなものに群がりむしり取り、吸い上げ、しゃぶりつくし、用なしになったら捨てられる。
歌い続けるためには何でもやる、と響は言った。
実際、世の中をうまくわたって折り合いをつけること以外に関しては怖ろしいほど響は変わった。
「いや、歌うためにそこんところをもう少し頑張れよ」
だがそれが無理なこともわかっていた。
響は歌以外のことなら何を言われようと平気だ。
愛想がない、人間性の欠落、サービス精神皆無、思いやり欠如、今までもさんざん言われてきたし、マネージャーも続かない。
それを傲慢だ生意気だと人は言うし、確かにその通りだと成瀬も思う。
「あんなに甘やかしていたら、そのうち困ったことになるぞ」
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