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業界内で囁かれる噂はもちろん成瀬の耳にも入った。
確かにその通りだ。
だが、事実は少し違う。
彼は純粋なだけなんだ。
だがそれにも限度がある。
純粋すぎると壊れてしまう、そういう世界だ。
だからこそ、成瀬は自分が矢面に立つしかなかった。
だが、甘やかしていたのも事実だ。
壊したくなくて、守りすぎていたのかもしれない。
「才能があるというなら、もっと本格的に学ばせるべきじゃないのか」
「社長、それについては考えていました。しかし」
「しかし?」
社長は首を傾げた。
「スカウトしたらまず基礎レッスン、それがお前のやり方だっただろう?」
「通常どこもそうだと思いますが」
成瀬は言葉を濁した。
「まさか、才能があるから今のままでいい、とでも思っているのか」
半笑いで探るようなまなざしで成瀬を見た。
「いえ」
変にいじって、壊れてしまわないか。
魂を持っていかれるようなあの感覚が失われることを成瀬は恐ていた。
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