1.楽器の主張

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 業界内で(ささ)かれる(うわさ)はもちろん成瀬の耳にも入った。  確かにその通りだ。  だが、事実は少し違う。  彼は純粋(じゅんすい)なだけなんだ。  だがそれにも限度(げんど)がある。  純粋すぎると(こわ)れてしまう、そういう世界だ。  だからこそ、成瀬は自分が矢面(やおもて)に立つしかなかった。  だが、甘やかしていたのも事実だ。  壊したくなくて、守りすぎていたのかもしれない。 「才能があるというなら、もっと本格的に学ばせるべきじゃないのか」 「社長、それについては考えていました。しかし」 「しかし?」  社長は首を傾げた。 「スカウトしたらまず基礎レッスン、それがお前のやり方だっただろう?」 「通常どこもそうだと思いますが」  成瀬は言葉を(にご)した。 「まさか、才能があるから今のままでいい、とでも思っているのか」  半笑いで探るようなまなざしで成瀬を見た。 「いえ」  変にいじって、(こわ)れてしまわないか。  魂を持っていかれるようなあの感覚が失われることを成瀬は(おそ)ていた。
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