1.楽器の主張

14/16

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 何かを得れば何かを失う。  あの歌声が違うものになってしまった時、成瀬はきっと響への情熱を失うことになるだろう。  そのことが怖かった。  本格的な発声を学ぶこと、喉の使い方をきちんと教わることはきっと響のためになる。  そう頭ではわかっていても、そのことによって今の持ち味が失われるのなら、このまま行けるところまで行く方が得策(とくさく)のようにも思えた。  響の人生、将来、それよりも自分がファンであり続けることの方が大事とは、事務所の人間としてあるまじきことだとわかっている。  それでも。  酒には強い方ではないのに、考えると飲まずにはいられなくなった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加