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そう言ったくせに、と広瀬啓二は雑誌を広げてため息をついた。
白いシャツを着て、生真面目な顔でこちらを見ている写真はまるで証明写真のようだ。
愛想のかけらもない。
「なんだこれは」
大きな声を出すと、ソファーに身を投げ出していた響はぴくりと眉を動かした。
「約束が違う」
成瀬は手に持っていた雑誌をテーブルにたたきつけた。
「なんでもやるんじゃなかったのか」
「一応、やったよ」
「一応だと? ふざけるな。全力でやれ」
「無理だよ。成瀬さん。僕の職業は歌手だよ。いくらカメラマンに表現しろとねちっこく迫られても、がみがみ怒鳴られても、できないものはできない」
「せめて笑えよ」
「嬉しくもおかしくもないのに笑えないよ。僕はモデルでも俳優でもないんだから」
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