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「そりゃまたずいぶん、手厳しい、というかキツいな」
たった一つの取り柄をそんなふうに言うなんて。
ハートがない、は言い過ぎだ。
少しでも好きになったのなら、響がどんなに真剣に音楽と向き合いすべてを注ぎ込んでいるのかわかりそうなものだ。
「まあ、別れる時って……必要以上に傷つけあうものですよ。若い時は特に」
うな重を片手に遠い目をする羽鳥にも、そんなことがあったのだろうか。
「しかし、ずいぶん詳しいな」
「情報収取はマネージャーの仕事の一つです」
「やはり羽鳥さんは有能だね。見込んだだけのことはある」
「鰻のコースをご馳走してもらえるくらいには」
親指を立てて、くちびるをきゅっと横に広げイルカに似た笑みを浮かべた後、お茶を大切そうに飲み干す。
そのコップを置いたと思ったら、急に心配そうな顔になった。
「大丈夫ですか?」
「鰻のコースぐらい大丈夫さ」
「そうじゃなくて」
丸い指で、成瀬のうな重を指した。
「半分も食べてないじゃないですか」
「だから、胃の調子が良くないんだってば」
「なんか、すみません」
「いや、話が聞けて良かったよ」
「お耳に入れるほどの事でもないかと思ったので、報告はしなかったんです。女性問題も付き合うとなればお耳にいれるつもりでしたが、どのケースもそこまでには至らなかったので」
「うん」
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