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3.不協和音の始まり
予定していたレコーディングの日程が大幅にずれこんで、あちこちから苦情が来るのはいつものことだ。
「あのう、レコーディングがヤバいことになってまして」
羽鳥の丸い顔にちょこんと乗せられた赤縁の眼鏡の奥から覗く小さな丸い目が、不安気に左右に揺れるのを見ながら「どうした」と成瀬は顔を上げた。
「プロデューサーの石渡から押している、っていう話は聞いた。何かあったのか」
「ラスト一曲なんですけど」
「ああ、良かった。じゃあ、今日中には終わるな」
「良くはないです。本当は昨日、終わるはずだったんです」
「何か問題が?」
「響が」
「響がすねているのか」
「すねているというかなんというか」
羽鳥は両手を万歳した。
「全員、もうお手上げなんですよ。痛々しくて見ていられません」
「どういうこと?」
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