1.楽器の主張

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努力(どりょく)をしろ」 「したよ。これでも。精一杯(せいいっぱい)」  今の響の発言で、当日の撮影現場(さつえいげんば)の空気の悪さがリアルに想像できて、成瀬は胃が痛くなった。 「努力が足りん」 「歌うための努力ならいくらでもするよ」  理想論(りそうろん)でやっていけるほど世の中甘くはないことを、こいつはまだわかっていないのか。  馬鹿(ばか)が、と広瀬は歯噛(はが)みする。 「これは歌うための仕事だ」 「作り笑いをうまくすることが?」 「そうだ」  (おさ)えきれない怒りが声の大きさとなって、苛立(いらだ)ちをさらに(ふく)れ上がらせる。 「名前を売るためなら、なんでもやれ。知ってもらわないと客は来ない」 「雑誌に小さな写真が二枚掲載(けいさい)されたところでそんなに変わるとも思えないけど」 「()ればいいんだよ」 「そんなに文句(もんく)を言うなら、広瀬さんが撮ればよかったんじゃない?」 「俺はカメラマンじゃない」 「ほら、そういうことだよ」 「どういうことだよ」 「専門外(せんもんがい)は無理、ってことさ」  広瀬はため息をついた。
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