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「努力をしろ」
「したよ。これでも。精一杯」
今の響の発言で、当日の撮影現場の空気の悪さがリアルに想像できて、成瀬は胃が痛くなった。
「努力が足りん」
「歌うための努力ならいくらでもするよ」
理想論でやっていけるほど世の中甘くはないことを、こいつはまだわかっていないのか。
馬鹿が、と広瀬は歯噛みする。
「これは歌うための仕事だ」
「作り笑いをうまくすることが?」
「そうだ」
抑えきれない怒りが声の大きさとなって、苛立ちをさらに膨れ上がらせる。
「名前を売るためなら、なんでもやれ。知ってもらわないと客は来ない」
「雑誌に小さな写真が二枚掲載されたところでそんなに変わるとも思えないけど」
「変わるような写真を撮ればいいんだよ」
「そんなに文句を言うなら、広瀬さんが撮ればよかったんじゃない?」
「俺はカメラマンじゃない」
「ほら、そういうことだよ」
「どういうことだよ」
「専門外は無理、ってことさ」
広瀬はため息をついた。
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