3.不協和音の始まり

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 あれは、初めてのレコーディングだった。    戸惑(とまど)いながらも、初めての体験に響は素直だった。  成功させたい一心で、成瀬も熱くなり過ぎていたのかもしれない。  今思えば、歌にばかり神経を注ぎ過ぎて、響自身のコンディションにまで気が回っていなかったのが原因だ。 「オーケー、終了です」  すべてが終わった途端(とたん)、響はその場に(くず)れ落ちた。  成瀬は仰天(ぎょうてん)して、(あわ)てて響を車に押し込み、そのまま病院へ連れて行った。 「過労ですね。ここ数日ろくに食事をしていなかったんじゃないですか」  食欲がないのは緊張のせいだとあえて食べることを無理強いしなかった自分の愚かさを成瀬は呪った。  無理にでも栄養ドリンクを2、3本飲ませておくべきだった。  歌うことがどんなに体力を使うことか、自分は知っていたはずなのに。  落ちくぼんだ目と、かさかさに(かわ)いた唇と、点滴の管を刺した白い腕を見ていると無性(むしょう)に腹が立ってきた。  もう子供じゃないんだ。  基本的な自己管理ぐらい、できなくてどうする。 「お前は馬鹿だ」  吐き捨てるようにそう言うと、成瀬はその日を含め一週間分の仕事をすべてキャンセルしたのだった。  処方された安定剤や睡眠薬を飲ませるために成瀬は一週間、響の部屋に泊まりこんだ。  放っておけば、薬を飲むのを忘れるか適当にまとめて飲んでしまいそうで見張らずにはいられなかったのだ。  
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