3.不協和音の始まり

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 命を(けず)るようにして作ったアルバムは売れなかった。  そりゃそうだ。  そのアルバムの存在すらほとんど知られていないのだから、売れるわけがない。  成瀬は(さと)悟った。  いいものは売れる、と言うのは嘘だ。  有名になったものが、売れるのだ。  知られなければ売れない。  幸い、響は細身で身長もある。見た目も悪くない。  モデルとしてその存在を知ってもらい、少し知名度(ちめいど)が上がればドラマのちょっとした役で出してもらい話題に便乗(びんじょう)、来るもの(こば)ず大いに利用、と成瀬は奔走(ほんそう)した。 「嫌だ」  そうやって必死の思いでとってきた仕事だったのに、響は首を縦には振らなかった。 「歌うため」だと成瀬は説明したが「歌うこと以外は契約外だ」と響は拒む。    だが成瀬はあきらめなかった。  ユアミュージックで一番の稼ぎ手であるべBENNYPOP(ベニーポップ)というグループのレコーディングにコーラスで参加させたり、「見学」と称してテレビ局やラジオ番組、雑誌の撮影まで立ち合わせた。  
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