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「何が気に入らないのか何を悩んでいるのかさっぱりわからないが、思うような音にならないらしい」
成瀬の手から弁当を受け取ると石渡は乱暴に箸を割った。
「あんたも大変だねえ。あの王子様には困ったもんだ。付き合わされる方の身にもなってくれよ。なにが気に入らないのか、何度やれば気が済むのか全然わからん。オレがオーケーと言ったらオーケーだ。違うか? プロデューサーはオレなんだから」
「すみません」
「まあ、わかってるよ。デビューからの付き合いだ。神経質というか、こだわりが強いっていうか頑固というか。でも限度ってものがあるだろ? はっきり言わせてもらえば、あいつがこだわっているような些細な違いなんて、誰にもわからんよ」
「すみません」
「あいつはオレたちをまるで信用していないんだな」
開いた幕の内弁当は彩もよく、魚や肉、野菜がバランス良く配置されていた。
「すみません」
馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。
それ以外に口にする言葉が見つからない。
あいつは誰も信用していないんです、俺のことも自分のことも。
「うん、うまい」
食べ進める石渡にお茶を渡して、成瀬は一礼した。
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