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「何しに来た」
「……苦戦しているようだからさ」
あんたに何ができるの、何もできないくせに。
ヒステリックな声が昔のように跳ね返って来るかと思ったが、響は黙ったままだった。
「どうした。調子が悪いのか」
「そうだね」
あっさりと素直に認めたことに、成瀬の方が驚いた。
いやいや、やめてくれ。
素直で弱気な響など、薄気味悪い。
「高音の伸びが悪い。音が濁る」
「さっき録音テープを聞いたが、そうでもなかったぞ」
「僕がそう思うんだ」
ああ、そうですか。としか言いようがない。
「誰がプロデューサーだと思っているんだ。何のためにアレンジャーがいる。メンバーがいる。一人で音を作るわけじゃない」
「成瀬さんのそれはもう聞き飽きた」
「好きにしろ、と言いたいがそうもいかない。あと一回で終わりにしろ。ここをコンサート会場だと思え。出来がどうであろうと関係ない。本番は一度きりだ。ライブで、納得いくまで同じ曲を何度も歌うことはできないのと同じだ」
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