3.不協和音の始まり

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「何しに来た」 「……苦戦しているようだからさ」  あんたに何ができるの、何もできないくせに。  ヒステリックな声が昔のように()ね返って来るかと思ったが、響は黙ったままだった。 「どうした。調子が悪いのか」 「そうだね」  あっさりと素直に認めたことに、成瀬の方が驚いた。  いやいや、やめてくれ。  素直で弱気な響など、薄気味悪い。 「高音の伸びが悪い。音が濁る」 「さっき録音テープを聞いたが、そうでもなかったぞ」 「」  ああ、そうですか。としか言いようがない。 「誰がプロデューサーだと思っているんだ。何のためにアレンジャーがいる。メンバーがいる。一人で音を作るわけじゃない」 「成瀬さんのはもう聞き飽きた」 「好きにしろ、と言いたいがそうもいかない。あと一回で終わりにしろ。ここをコンサート会場だと思え。出来がどうであろうと関係ない。本番は一度きりだ。ライブで、納得いくまで同じ曲を何度も歌うことはできないのと同じだ」
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