3.不協和音の始まり

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「同じじゃない。客もいないし、ここはライブ会場じゃない」 「だからやり直しができる、なんて思うな。演奏は一度きり、同じ音は二度と出ない。前にそう言ったのは、お前だ」 「商品にベストを求めるのは当然だ」 「商品ならコストにこだわるのは当然だ。とにかく、これ以上は時間も金もない」 「結局はそこかよ。さすが専務、金と時間にはうるさいってわけだ」 「理想に追いつけないのと言うのなら、それが今のお前の実力だからだ」  言い過ぎた、と思った。  一番わかっているのは本人だ。  落ち込ませてどうする。 「理想に向かって歌うんじゃなくて、誰かのために歌え」  成瀬にとっては、これが精いっぱいの助け舟だった。 「誰かって、誰だよ」 「それはお前が考えろ」  ごくりと水を飲むと、響は立ち上がった。 「出て行って」
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