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「同じじゃない。客もいないし、ここはライブ会場じゃない」
「だからやり直しができる、なんて思うな。演奏は一度きり、同じ音は二度と出ない。前にそう言ったのは、お前だ」
「商品にベストを求めるのは当然だ」
「商品ならコストにこだわるのは当然だ。とにかく、これ以上は時間も金もない」
「結局はそこかよ。さすが専務、金と時間にはうるさいってわけだ」
「理想に追いつけないのと言うのなら、それが今のお前の実力だからだ」
言い過ぎた、と思った。
一番わかっているのは本人だ。
落ち込ませてどうする。
「理想に向かって歌うんじゃなくて、誰かのために歌え」
成瀬にとっては、これが精いっぱいの助け舟だった。
「誰かって、誰だよ」
「それはお前が考えろ」
ごくりと水を飲むと、響は立ち上がった。
「出て行って」
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