3.不協和音の始まり

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 何よりお前がもう限界だろう。  理想は追うためにある。  完璧を求め過ぎて燃え尽きるな。  分厚いガラスに遮られた録音室の向こう側に、ヘッドフォンを付けマイクの前に立つ響が見えた。  これから一人で戦うのだ。  成瀬にできることは何もない。 「お、歌う気になったか」  石渡が食べていた弁当をテーブルに置いた。 「やっぱり、成瀬さんだわ」  弁当効果で、スタジオの空気が(ゆる)んでいる。  ブースの中にいる響に向かって手を上げると、にらむような眼をして頷いた。    U~UUUUUU。  細い声が徐々に大きく力強くうねりだす。  壁を震わせ鼓膜を震わせ体の芯がぎゅんと痺れた。  甘い痺れに思考が止まる。  体を満たしていく声に、細胞が反応していくような不思議な感覚。  その声が消えても、まだ体の中にわずかに震えが残っている。  そして、余韻(よいん)を味わうための静寂(せいじゃく)。  しんとした中に、響が両手で大きく丸を作って見せた。  GOのサインだ。
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