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一気に空気が変わった。
スタジオの中に緊張が走る。
オーケーオーケー。
スタンバイオッケーです。
あっという間にそれぞれのポジションについて、目配せを交わす。
懐かしい空気だ。
みんなの真ん中にいるのは、やせこけて髪の毛がぼさぼさの男だ。
白い顔に長いまつ毛に縁どられた瞳、薄い唇、整ったその顔はまるで魂のない人形のように見える。
無表情な顔がゆがむ。
ほんの少し苦しそうにひそめた眉と開いた唇から出た最初の一音が、空気を震わせた。
オーケーサインを出した響が歌い出した時の総毛立つような瞬間に立ち会えた時、その場にいるすべての者は、このために今までやってきたのだと納得するのだった。
おそらく響自身、気付いていないのだろう。
いつも無表情な響が瞳を輝かせ、微笑んだり切ない色を浮かべたり、時に瞳の奥に怒りの炎を浮かべながら歌うことを。
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